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上遠野浩平『殺竜事件-a case of dragonslayer-』

No.15
講談社ノベルス:2000
☆☆☆
 その理由は単純にして明快だ。
 ここに竜がいるからである。

世界の枠組みはシンプルであるほど良い。

ファンタジーとミステリの融合なんだそうな。確かに舞台となるのは架空の世界なのです。その特徴は実に単純で、「竜は最強の存在」。そのおかげで、「竜が他殺としか考えられない状況で殺されていた」というだけで事件の不可能性が説明できてしまうのです。「何故この問題を解くのは難しいのか」というところからディスカッションしなければならないよりも、こういうシンプルな構図の方がずっと魅力的ではないかと個人的に思います。

物語は竜殺しの犯人を捜すために、過去に竜に面会した人物に会うべく世界中を旅する、という形で進んでいきます。それぞれの土地でのエピソードの中には魅力的なものもあるにはあるのですが、一番の問題であったはずの「竜殺しの真相」についてはなおざりになっている感が否めません。せっかくここまで魅力的な謎なのですから、もっとこれに関するディスカッションが行われた方が面白いだろうと考えるのはやっぱり一般的ではないのでしょうか?

一応最後には解決を見るけれど、そこも若干疑問が残る形だったというのが勿体無いです。架空世界を一から構築しているのですから、もっとそれ独特の論理を生かしたものが見たかったですね。その時、本当の意味でのファンタジーとミステリの融合があるような気がします。

関連本→
宮部みゆき『ブレイブ・ストーリー』:ちょっとミステリよりに、かつもう少しメタな展開がお好みならば。最近文庫化もされたことですしね。
by fyama_tani | 2006-06-04 21:35 | 本:国内ミステリ