殊能将之『黒い仏』

No.44
講談社文庫:2001
☆☆☆
 まったく無害に思えたのですね。コレまでのページには、どんな確かな原理も含まれず、どんな教義も広めず、どんな信念も侵害しない、と……。
 しかし、槌は振り下ろされ、もはやすべては遅すぎるのです。

どこかで読んだ、独裁者が次々と出してくる統制が、自分の宗教には関係無いという理由で何も意見していなかったら、最後にそれが規制された時に、味方になってくれる人はみんなそれまでの統制でいなくなっていて何も出来なかった、という修道僧の話を思い出した。

前作『美濃牛』に続き、石動戯作が主要登場人物として出てきます。物語は、9世紀に天台僧の円載が残したとされている秘宝を探すために石動がダイエー(当時)の日本シリーズ出場に沸く福岡へ行くというパートと、同じく福岡で見つかった身元不明の殺人事件を捜査する刑事のパートに大きく分かれます。

全ての描写が肩透かしをくらわせるような感じになっているというか、穿った見方をすれば読者を小馬鹿にしたように見えなくもなくて、それが合わない人には合わないかもしれません。後半に出てくる居酒屋のメニューあたりは、ちょっとくどすぎるかも、と思いました。

あとこの人の書く小説は料理が凄いうまそう。今回も、石動が宿泊することになる旅館は、田舎のボロ旅館ではあるけれど何故か料理だけは一流。そうとう思い入れがあるのでしょうね。

他の人のブログとかも読んでみたのですが、この本ネタバレ無しで説明するのほとんど無理。

関連本→
宮部みゆき『初ものがたり』:短編一つ一つに出てくる料理が、こちらもおいしそうに描かれています。



あの仕掛けは……、正直どうなんでしょうか。試み自体は全然悪くは無いと思うのですよ。ただ、あくまでこの作品はミステリとして読まれることが前提(もしかしたら作者はそう思っていないのかもしれないが、指し示す状況は完全にそう)じゃないですか。その時、ミステリパートがこんなもので良いの? という気がしました。宝の場所に関しては、『美濃牛』での暗号を思えば、完全に手抜きとしか思えない。それでいてメモに関した時間軸に対する考察が変に詳しく書かれていたり(似たようなことをあとがきでやった北村薫の『ターン』よりはマシだと思いますが)するのは、何か読みづらくしているだけだなー、と。

敢えてこういった手法を取ったということは、評価されてしかるべきだと思います。そこで☆一つ加味。

未読の人は、巻末の参考文献だけは絶対読んじゃダメー。

関連本+→
歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』:巻末の補遺を最初に読んでは絶対にいけない。こっちの仕掛けは文句無しに凄いよ。
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by fyama_tani | 2006-09-30 23:10 | 本:国内ミステリ