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京極夏彦『文庫版 陰摩羅鬼の瑕』

No.47
講談社文庫:2003
☆☆☆
「そう云うものです。否、それだけではない。神も仏も、幽霊も祟りも、何もかも――そんなものは全部嘘です」

拝み屋だと自己紹介した直後に全否定か。

『塗仏の宴』から大分間が開いた京極堂シリーズです。刊行当時は、第1作の『姑獲鳥の夏』と対を為す作品として話題を呼んでいたような気がします。

今回舞台となっているのは長野県の山中。ここに代々住んでいる由良元伯爵の屋敷は、屋敷内に無数の鳥の剥製があることから「鳥の城」と地元の人たちに呼ばれています。50位になる由良元伯爵はこれまで4度の結婚をしましたが、花嫁はいずれも新婚初夜に何者かによって殺されており、最初の事件から23年が経った今も、真相は闇の中。そして今回、5人目の花嫁を迎え入れることになり、花嫁を護るために呼ばれた探偵榎木津礼二郎と、その付き添いで小説家の関口巽が屋敷に足を踏み入れるところから物語が始まります。

えっと、青ひげ? みたいな舞台設定。更に、中盤に差し掛かるまで、事件らしい事件は何も起こらず、周辺描写に終始するような構成。これはこのシリーズを読み慣れていない人は絶対投げ出してしまうんじゃないかな、と思います。榎木津の思わせぶりな言葉も、今回に関しては読者までも混乱させてしまっているだけがして、ちょっと今回存在意義が微妙かな、と。最後まで読んで考察を加えれば、榎木津の能力が無効となる構成の事件だった、ということは理解できるのですが、それでもねぇ。

読み終わって感じたのは、「こんなシンプルなお話をよくぞここまで長くしたな」という事でした。京極堂シリーズに限らず、一般的なミステリと比較してもシンプルな部類の真相だと思います。なのに有数の長さ(文庫本1000ページ超)。森博嗣の初期の作品に類似の解釈がある事が惜しまれるか。

ある意味、本作はミステリ史上最高の知能犯を描いたものと言えなくも無いです。そのような犯人を追いつめるためには、儒教を始めとした古今東西の哲学やそれをベースとした死生観に関して膨大な議論を行う必要があった、とすればこの長さも妥当なのでしょうか。

関連本→
山口雅也『生ける屍の死』:これも後半部分を理解するためには、若干退屈な前半の考察が必要不可欠。こっちの方が巧く決まっているので、オススメ。
by fyama_tani | 2006-10-21 22:48 | 本:国内ミステリ