恩田陸『ねじの回転―FEBRUARY MOMENT』
No.49
集英社文庫:2002 ☆☆☆ 俺はただの変人だ。法華経にかぶれ、紙の上の戦争を夢想した偏屈な男に過ぎない。 それを実現させてしまったというのは偉大な事なのか、それとも犯罪的行為なのか。 舞台はタイムトラベルの技術が完成したとされる近未来。でも時代設定は昭和初期の日本。というのは、タイムトラベルの技術を用いて過去の改変(「聖なる暗殺」と作中では称されている)を行った結果、もともとの時代に原因不明の難病(HIDSと呼ばれているらしい)が流行ってしまい、人類滅亡の危機になった、さあどうしようという事になり、その解決策として挙げられたのが、1936年2月26日の東京、いわゆる「二・二六事件」に介入し、「過去の修復」を行うということで、だから近未来でありながら昭和初期の日本で物語は進行する、というそんなSF。 ああややこしい。 で、「過去の修復」を行うためにその未来な人たちは協力者をその時代の人物に求めていて、それで選ばれたのが安藤輝三大尉・栗原安秀中尉・石原莞爾大佐の3人だった。 と言われてこの3人が何者か分かりますか? あと、安藤・栗原が陸軍皇道派に対して石原は敵対勢力の統制派だと即座に理解できたりします? まして、その統制派のドンこそがあの東条英機で、でも東条と石原の仲は異常に悪いとか知ってます? この辺りは日本史の教科書でもあまり書かれていない事なので、知らない人がほとんどでは。事実、俺も栗原安秀は知らなかったし、襲撃された人物の中に鈴木貫太郎(後に太平洋戦争最後の総理大臣になる)がいたということも知りませんでした。 で、何でこんなことグダグダ書いているかというと、そういった知識を前提にしているかのように物語が進んでいくんですよ。言い換えると、未確定要素があまりに多い。ある面に対してはちゃんと答えが提示されていて、一見それだけを見ると綺麗に決まっているような気がするけれど、「じゃあこの件はどうなったのよ?」と突っ込み始めるとキリが無い。そもそも、「何で二・二六事件に介入する必要があったのか?」という点から釈然としません。日本近代史の中では最も不可解な点が多い事件の一つであるという点は否定しませんが、全世界的に見て(介入している未来人は、国連職員という設定)重要な事件かどうかというと怪しいものです。早い話が軍の内輪揉めですからね。 ある程度背景を知っているので、雰囲気的にはそこそこ楽しめたのですが、全く知らない人が読んだらどう感じるのでしょうか。実在した人物とは考えずに、純粋なフィクションとしてよんでしまうのでしょうかねえ。 関連本→ 宮部みゆき『蒲生邸事件』:これも二・二六事件を扱っている、という事で頻繁に比較されている。こちらはメインに架空の陸軍大将を据えていて、純粋なフィクションという立場を取っている。個人的には、作品の出来はこちらの方がずっと上だと感じた。
by fyama_tani
| 2006-11-02 23:47
| 本:その他
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小説の紹介とか化学に関する事とかを織り交ぜながら適当に。
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