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多島斗志之『海上タクシー<ガル3号>備忘録』

No.51
創元推理文庫:1996
☆☆☆
「うまく説明できれば、苦労はない。四十五年間のおれの人生をあんたがそっくり辿りなおさない限り、あんたにおれを理解することはできない。その逆も言える。あんたの人生をまるごと生きてみない限り、おれはあんたの全てを理解することはできないんだ。人間は、他人をほんとうに理解することなんてできはしない」

でも船が運転できる位に器用ならばどうにかなる。

数ヶ月前にやっぱり文庫化された『二島縁起』に同じく、瀬戸内の海で海上タクシー業を行う寺田が主人公。こちらは7つからなる短編集となっています。長編の『二島縁起』とどちらから読んだ方が良いか……難しいところです。気が向いた方から。『二島縁起』で地図が無いのはやっぱり読みづらかったのか、今回は各短編ごとに舞台となる地域の地図が(ネタバレしない程度に詳しく)載っています。これはありがたい。

基本的には後日談の体裁が取られています。そのせいか、かなり凄いことが起きているにも関わらず、どことなく乾いた雰囲気が全体的に漂っています。これは、熱い行動をしている割に言動は醒めたところがある、寺田のキャラにも通じているのでしょう。また、やり遂げた事に対する見返りが必要最低限(中には、「えこの程度?」みたいなものも)でしか無いというのも関係しているかもしれません。

タイトルからしてそうだし、実際中身もかなり変化球な「N7↑」から始まって、寺田の人生観が垣間見えるような「灘」で終わり、多分「灘」を持ってこのシリーズは完結なのでしょう。無理矢理続ける気になれば可能だとは思いますが、引き際が美しいのもこの話には合っている、という気がします。

関連本→
多島斗志之『不思議島』:登場人物は違うけれど、舞台はやはり瀬戸内海。タイトル通り、不思議な雰囲気の作品です。
by fyama_tani | 2006-11-09 22:25 | 本:国内ミステリ