殊能将之『鏡の中は日曜日・樒/榁』

No.53
講談社文庫:2001・2002
☆☆☆☆+
 本格ミステリに登場する奇妙な館や屋敷の住人は、不便な設計に毎日愚痴をこぼしながら生活しているのだろうか?

まあ……、お約束のようなもの……、ですからねぇ……。

長編『鏡の中は日曜日』と、ノベルス版では別になっていた『樒/榁』の2中編が一つにまとまったお得な一冊。

『鏡の中は日曜日』。いきなり第一章から精神に異常をきたしていると思われる人物の一人称で語られるというとっつきづらい設定。更に第2章では、名探偵水城優臣が活躍する鮎井郁介『梵貝荘事件』が作中作の形で出てきて、その事件はフィクションではなく、実際に起きた事件だったということになっていてその事件の再調査を頼まれた石動戯作が現代パートとして出てくる、という非常にややこしい設定になっている。ごめんちゃんと説明できない。

『梵貝荘事件』の方は、全く型どおりに「犯人は誰?」的なものです。この作品は「名探偵最後の事件」と銘打たれており、更に雑誌連載だけされて単行本にはなってない、何で? というのを現代の石動戯作は調査するわけです。まずいなこれこの手の事に興味の無い人間にとっては極めてどうでも良いことだぞ。

現代パートで出てくる人物は、『梵貝荘事件』から10数年後の人たちなわけですが、それぞれの変わりようが、いかにもこの作者らしくひねっております。そして事件の舞台となった「梵貝荘」自体も……。完全にお約束をネタにしてますな。

これだけ複雑にしたツケを最終章で清算するわけですが、その仕掛けは今までの総決算的な感じがして、結構興味深かったです。参考文献の冒頭に綾辻行人の「館シリーズ」が全部(この時点での最新作『黒猫館の殺人』まで)挙げられています(ちなみに、本作の登場人物は「館シリーズ」の登場人物の漢字を組み合わせたもの。ほとんど悪ノリの域)が、確かにあのシリーズ6作のトリックを全部混ぜ合わせて6で割ったらこうなるんだろうなあと。一つ一つの仕掛けの中には見抜きやすいものもありますが、ここまで凝った多段は珍しい。

それにしても、この作者の一連の石動戯作ものにおける石動の存在って一体……。結局、2作連続で○○ができていないってことですよねぇ。あと、このシリーズはリアルタイムで読むべきのような気が。後に本作があると知っての『黒い仏』とか、最新で別な作品があるのを知っていて本作を読むというのは、一番の驚きを損していると思われます。

『樒/榁』(ちなみに、それぞれの木へんを取ると「密室」になるというのがこのタイトルの意味)は『鏡の中は日曜日』より必ず後に読んで下さい。『樒』は水城優臣が密室殺人の謎に挑むというオーソドックスな作り。『榁』は16年後の全く同じ場所で石動戯作が主人公の話。スタンダードに過去と現代を2つの中編に分けたという感じですが、やっぱりその変わりようがひとひねりあるという感じです。

関連本→
綾辻行人『時計館の殺人』:精密に組み上げられた謎。殊能氏も真面目に書けばこういうのができる人のような気がするのだが……。
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by fyama_tani | 2006-11-14 22:10 | 本:国内ミステリ