荻原浩『噂』
No.55
新潮文庫:2001 ☆☆☆ 「悪魔の噂をすれば、悪魔が現れるんじゃないですか?」 噂通りの内容の悪魔が現れる事を意味しているのだろうか、それとも内容に関係の無い悪魔が現れる事を意味しているのだろうか? 「衝撃のラスト一行に瞠目!」とか帯に書かれると買っちゃうんですよね。馬鹿だから。そして途中でだれても「きっと最後まで読めば面白くなるはずだから最後まで読もう」と思ってくれる。出版社からすれば非常に扱いやすい客だ。 新作の香水のキャンペーンのために、担当の広告代理店が取った戦略は、ライバル社の製品から遠ざけ、目的の香水を買いたくなるような噂を故意に作り出し、顧客として想定している渋谷の女子高生の間に流す事だった。 その噂の中の一つに「最近女子高生を襲い、命を奪った上に足首を切って持っていく殺人鬼が現れるが、その香水をつけていると襲われない」という「口裂け女かよ」みたいなものがあったが、それが現実のものとなってしまってさあ大変、という切り口で。 読んでいる間ずっと気になっていたのでその後ちょっと調べたのですが、この作家の文章って物凄く宮部みゆきと似ていませんか。というか本人がかなり意識しているに違いない。キャラ設定もそうですし、地の文での突っ込みが物凄くそれっぽい。 まだ2作しか読んでませんが、最近(『理由』以降位?)の宮部みゆきの重厚長大型の現代ミステリには苦手意識がある人には綺麗にはまったのかもしれない。時期も似ているし。俺は似すぎている事にどうにも違和感がぬぐいきれなかった。 それと捜査陣が頭悪すぎです。今時これはどうかなあと。○○○○ンを麻薬と同列に扱うのはおかしいと思うのだが……。知らなければ作者自身に罪は無いと思います。ただ、チェックの途中で変えるべきだよね。警察が混同するのはおかしいし、他のものに変えても完全に成立するので。 さて、注目の「最後の一行」ですが。 うんちょっと唐突過ぎね? と思いました。その前で一旦終わる話の流れの方に比べると全然普通だしね。これが全体の事件に関わってくれば中々凄かったと思いますが、そういうものでも無いし……。必然性の部分から議論する必要がありそうです。あと、本当に「最後の一行」なので伏線の回収も無いので、ある程度ポイントを押さえた読み方が要求されているかなと。 関連本→ 宮部みゆき『魔術はささやく』:広告に噂を使ったという点が凄いと言われているけれど、だったらもっと昔に出ているこっちの広告ギミックの方が凄くないですか。物語としての精度も段違いだと思います。 麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』:最後では無いけれど、終盤も終盤の一行のみで完全に物語を語りつくしていると思う。やっぱり伏線の回収は無いけれど、言われているほど分かりづらい作品ではないと思います。
by fyama_tani
| 2006-12-03 17:54
| 本:国内ミステリ
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小説の紹介とか化学に関する事とかを織り交ぜながら適当に。
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