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ジェフリー・ディーヴァー『コフィン・ダンサー』

No.59
文春文庫:1998
☆☆☆☆☆
「私まで一緒にするな」ライムが指摘した。「私だけは騙されなかった」

どのように見破ったかは気になるところ。というかもの凄い自信。

元ニューヨーク市警科学捜査部長で、科学捜査のエキスパートだったが今は捜査中の事故によって四肢麻痺となり、寝たきりの生活を送るリンカーン・ライムが主人公のシリーズ第2作。1作目『ボーン・コレクター』は映画化もされているのでご存じの方もいるかもしれません。

四肢麻痺という特殊な状況ですが、そうなった原因があくまで「捜査中の不慮の事故」であって、特定の人物に復讐されたとかそういう形になっていないのがミソでしょうか。無理矢理な宿敵の設定みたいなのはあまり好きになれないタチですので。

さて、シリーズものの2作目は地道にクオリティを維持させるか、キャラクターメインに走るかの分岐点となる、重要なところであると考えられます。個人的には前者であって欲しいですが、作者としてはネタ切れの恐怖にさいなまれるパターンでしょう。

本作はややヒロイン役のサックスが何でもできる感に描写(射撃もカーテクニックも一流で、全作からライムに仕込まれた現場鑑識の腕も高い)されているフシこそありますが、総じて犯人を追いつめるところのプロセスは高め。更に話の進め方も、ライムはじめ捜査陣は殺し屋「コフィン・ダンサー」の正体が分からずあの手この手を尽くすパートがあるのは当然として、平行してターゲット(ライム達が護るべき)を狙う殺し屋の視点からも語られるという倒叙的趣向もあり、更にその殺し屋は早くに自分を追う敵の名前が「リンカーン(・ライム)」であるとは分かるもののその正体は分からず不安にさいなまれるという、実はどっちも相手の手の内が分かっていないトリッキーな状況が見て取れます。

これだけでも十分凄いが、更に終盤に航空機を用いたアクションシーン(類似のモチーフは過去作品にたくさんあるパターンだが)あり、その上もの凄い仕掛けが何重にも張り巡らされていて……。あらゆる要素が数段パワーアップしてますねこれは。

やや専門的な視点から見ると、やっぱGC-MSって良いんですかねえと。GCだけでも欲しいと仕事柄思うのです。ただ、GCだけならそんなに大きくはないが、MSがつながっているとなると、イオン化はおそらくEIで、出たフラグメントパターンをデータベースと照合して同定という形を取っていると思う。で、検出系は時代設定を考えるに磁場偏向型だろう。それが普通に部屋にあって、更に他の分析機器もあるってのはどんだけでかいんだライムのプライベート研究室(というよりライムの家)。スペース考えるなら四重極型だけど、HRMS取れないしね。本文中に分子式を決定していると思われる描写があるから、おそらく無い。

関連本→
松岡圭祐『千里眼』:こっちは心理学を用いた犯行の追求プロセスが圧巻。更にアクションシーンも充実、どんでん返しもありとエンターテイメントど真ん中、って感じですか。
by fyama_tani | 2006-12-23 23:38 | 本:海外ミステリ