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北村薫『朝霧』

No.82
創元推理文庫:1998
☆☆☆☆
「いやだなあ、僕は。――いいかい、君、好きになるなら、一流の人物を好きになりなさい。――それから、これは、いかにも爺さんらしい台詞かもしれんが、本当にいいものはね、やはり太陽の方を向いているんだと思うよ」

本物は圧倒的。どうやっても出てくるものだと思う。大多数はそうでは無いから、出方を考えないといけないけれど。

シリーズ第五作目。ここで途切れているのかな? そうであることが非常に勿体無いと強く感じる作品集です。

メインキャラに落語家がいることから、これまでも様々な落語との絡みが出てきていたのですが、本作における本編との有機的な絡みは特に見事。というか改めて思ったけれど落語って奥深いですねー。『風呂敷』(「山眠る」より)は脱出不可能な密室からいかに出るかを扱ったものだと取れるし、『天狗裁き』(「走り来るもの」より)なんてまんまメタフィクションですよね。落語を借りて、近年のミステリを総括している、そんな感じがします。そこに縦横無尽に張り巡らされた伏線、その伏線そのものを扱ったのが最後の「朝霧」。『淀五郎』におけるある台詞の必要性をめぐる議論は、そのまま小説に対する作者の美意識が出ているようです。

シリーズ横断的な伏線や暗合が出てくることや、「朝霧」中の暗号を最終的に解くのは円紫師匠ではなく「わたし」自身である点、そこにラストのあの一文、と来れば、シリーズとして佳境に来ていることが非常に感じられます。でもこの先が出ていない。これは非常に惜しい!

関連本→
若竹七海『ぼくのミステリな日常』:伏線に次ぐ伏線といえばやっぱりこれ。この無駄の無さも凄いっすね。
by fyama_tani | 2007-05-20 22:30 | 本:国内ミステリ