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多島斗志之『白楼夢―海峡植民地にて―』
No.86
創元推理文庫:1995 ☆☆☆☆+ 「名前だけの虚像も、そうやっていつのまにか実際の有力者になっちまうんです。世の中、すべてそんなものでしょう?」 実際の実力ってあんまり関係ないですよね。多分、必要とされているレベルは大して高くないからだと思う。 「多島斗志之コレクション」第4回配本。第3回から大分間が開いたような。そして、あまり売れないのか本屋での扱いが悪いです。同じ創元棚の佐々木丸美と比べると差が歴然。だからなのか、これまで次回配本のタイトルが帯に書いてあったところ、今回は書 い て 無 い。打ち切り? あまりに勿体なさ過ぎる。 とりあえずこれまでの3冊も凄いが、これもかなりレベルが高い。ちなみにシリーズものではないので、先の3冊を読んでいる必要は全く無いです。 舞台は大正時代の日本、ではなくシンガポール。イギリスの植民地だった時代ですね。といっても土地を実質的に仕切っているのは華僑の面々。そこに日本から渡ってきて、1年かそこらで日本人社会の顔役にまで登りつめた男、林田が本編の主人公です。 物語は林田がこの土地に来てからいかにしてその地位に至ったかが描かれた「回想」と、林田の恋人であり有力華僑の娘である呂百蘭が殺され、その濡れ衣を着せられた林田が様々な追っ手をかわしつつ真相を目指す「白蘭殺人事件」の2つの時代を並走させた構成がとられます。 「回想」パートを読む限り、ああ結局のところコネ万歳なのだなあという感じがあるのですが、まあ何も無い人間がのし上がる時なんてのはこんなものなのでしょう。一方、「白蘭殺人事件」はタイトルこそ派手派手しいものの、最初何が起きているのか全く分からないかも。両パートで林田が出会う人間の登場タイミングを上手く合わせることで、1人の人物の両面を描き出すという計算された構成が鮮やかだと思います。 そして、終盤、真相と共に明らかになるのは歴史の裏側。つまり本作品はまごうことなき歴史ミステリなのです。もちろん創作なのですが、多分これに近いことくらいはあったよね? 的な思いつきからこの作品は出発しているのではないでしょうか。ただ、その終盤部位がちょっと駆け足気味なのが残念。 あと、この作者の作品全体に言えることなのですが、どうにも描写が淡白。だからこれだ! というインパクトに欠けてしまい、売れ筋からは外れてしまうのだろうと。どれも読み応えあるんですけれどね……。 関連本→ 宮部みゆき『蒲生邸事件』:2.26事件を扱った作品。SF的設定を取り入れているけれど、歴史に切り込んだエンターテイメント作品として、これもかなりレベルが高いと思う。 |
![]() 小説の紹介とか化学に関する事とかを織り交ぜながら適当に。
by fyama_tani カテゴリ 以前の記事 2011年 10月
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