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石田衣良『電子の星―池袋ウエストゲートパークIV』

No. 108
文春文庫:2003
☆☆☆
「うちのオヤジは腕はよかったが、ギャンブル好きでな。よくあることだが、人間自分の苦手なものほどのめりこむもんだ(後略)」

なるほど。あらゆることが苦手な私はだから何にものめりこめないのか。

この短編集は比較的どれも当たり外れのブレが少ないので読みやすいです。どうやら1作目からちょっとずつ時間の経過があるようですが、それが分かりにくく感じるのがシリーズ全体としてちょっとマイナスか?

4作目。ドラマ化もされて、氏自身かなり有名になってきた頃に書かれたものであると考えられます。それに呼応するように、マコトの事件との関わり方も全3作とはちょっと変わってきていると感じました。具体的には、コラムニストとしての自覚が増えており、またコラムニストとしての顔が認められつつある、という状況を利用している作品が目立つようになっている。これはそのまま、氏をとりまく環境の変化とも関係しているのでしょう。

例えば、「ワルツ・フォー・ベビー」の後半は、「コラムニストとしてのネタ集め」がマコトの第一行動理由になっており、また登場人物の幾人か(上野のチンピラ。当然それまでマコトとの接点はない)がマコトのコラムを読んでいる、という設定になっている。「電子の星」に至っては、対決するSMクラブ側にマコトのトラブルシューターとしての顔を知っている人間が出てくる、と(このシチュエーションはおそらく初?)。そもそも「電子の星」の事件に首を突っ込むきっかけになったのがネット経由の飛び込みメール。だんだん名探偵然としてきましたねえ。

また、本作においては短編の構成順序も良い。「黒いフードの夜」でビルマ(ミャンマー)からの難民を扱い、「まあ日本の方がマシかもしれんが天国というわけではないよ」という描き方をした直後に「電子の星」での山形の描写。前作「西一番街テイクアウト」で勝ち組と負け組は常に入れ子構造~みたいな描写があったけれど、それを作品間で成立させたというところでしょうか。

関連本→
桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』:これの地方都市の書かれ方も容赦ない。でもそんなものなんですよね。
by fyama_tani | 2007-11-10 15:22 | 本:国内ミステリ