カテゴリ:本:国内ミステリ( 98 )

2008年10-12月くらいに読んだ本

11月くらいにパソコンがぶっ壊れて、この4年間くらいに読んだ本時系列で並べたもの+現在所持している全ての本を著者別刊行順別に整理したもの、が全て消えたんですよ。

それを踏まえて、こうやって外部に残しておくのはそれはそれでバックアップ的な役割を果たす、ということでちゃんとやる価値があるかな、と。過去の恥をどんどん消しにくくしているだけとも取れるけど。

上甲宣之『そのケータイはXX(エクスクロス)で』
No.161
宝島社文庫:2003
☆☆☆☆+

「馬鹿」という言葉が褒め言葉になる、という表現がピッタリな一冊だと思う。

「この人おかしいんじゃないか?」というようなテンションが作品全体を一貫している。これだけ長いのにそれが全く落ちない。逆に長過ぎてこっちが疲れる、というのは数少ないマイナス。物語が破綻しているとか突っ込む気にもなれない。

携帯が小道具として重要な役割を持っているのですが、今では絶対成立しないだろう的なことも多数。携帯の進歩って凄いですね。

北村薫『冬のオペラ』
No.162
中公文庫:1996
☆☆☆

この人が描く探偵役、ってまず推理を誤るということがないんですよね。登場人物が変わらなくてもそれが一貫しているというか。

だからシリーズもので考えた時に、そのシリーズの独自性、という点に疑問符が作者自身もあるんじゃないかと思う。この作品は探偵役が自ら「名探偵」と名乗り、シリーズ化するような雰囲気をかもしだすもシリーズ化せずに終わってるし。

北村薫読んだことない人なら原型となった『空飛ぶ馬』からの一連のシリーズか、その構成を打開するかもな『街の灯』あたりを読んだ方が良いかな。

石田衣良『灰色のピーターパン—池袋ウエストゲートパーク6』
No.163
文春文庫:2006
☆☆☆

よくこれだけネタが思いつくというか、最近注目されたニュース的なものを単に引用するだけなら簡単だけど、それらをきちんと一つの短編に構成するというのは中々できないと思う。

「池袋フェニックス計画」はこのシリーズでは久々な感じのスケールの大きな一編。

連城三紀彦『変調二人羽織』
No.164
講談社文庫:1981
☆☆☆

かなりトリッキーな短編集。一つ一つに関連性はないけれど、そのどれもが異なった趣向を凝らし、かつそれが見事に成功している。

「ある東京の扉」は事件性はなくて、オチの意外性だけで読ませる、という中々珍しい作品なのでは。

あと、この本自体中々売ってないかも。

P. コーンウェル『死体農場』
No.165
講談社文庫:1994
☆☆☆

化学的現象をトリックに組み込んでくる手腕は相変わらず見事だと思う。事件自体のインパクトが微妙なのはシリーズ中盤ではありがちなことだと思うし。

このシリーズでどうも納得がいかないのは本の後ろに書いてある要約。これが思いっきりネタバレになっていたり、逆に本筋を何も伝えていなかったり、本当に作品読んだ人が書いてるの? って気が強くする。もったいないと思う。

J. D. カー『火刑法廷』
No.166
ハヤカワ・ミステリ文庫:1969
☆☆☆

本屋で平積みになっているのを見て、「超有名作品じゃん! 読んでみよう」ということで読んでみた。

海外作品にありがちな印象を受けた。すなわち、名前が覚えられないので登場人物に似たような人が出てくるともう物語が終えなくなる。

それでも、ラストに驚きがあるという予備知識があったので最後まで読んでみた。確かに中々ないオチだと思うけれど、自分にはそこまでが厳しすぎた。やっぱり頭を使って推理小説を読むという行為は自分に向いていないと感じた。

北山猛邦『「アリス・ミラー城」殺人事件』
No.167
講談社文庫:2003
☆☆☆☆+

この人の作品の中では一番評価高い作品らしい。

つか、そんな評価で良いの? って作品。もちろん題材的に一般受けはしないだろうけど(ミステリのお約束をある程度知っていないと楽しめない)、かなり凄い作品だと思う。トリックの仕掛け方に若干アンフェアなところがあるけれど、最近の作品の中ではかなり高水準のものであることは間違いない。

全二作の感じではこんなもの書きそうな感じではなかったんだけどなあ。これは凄いなあ。館ものとか好きなら絶対押さえておくべき。

陳舜臣『炎に絵を』
No.168
集英社文庫:1977, 2008
☆☆☆

最初にこの人の名前を知ったのは歴史文学の方でだったのですが、デビュー当時はミステリ色が強いものを書いていたらしい、ということを後になって知った。その中でもラストの衝撃度が高いと評されていた表題作が気になっていたのだが、最近ここに数作品を加えた新装版が刊行されたので読んでみる。

表題作は、確かに結末の鮮やかさとそれに至る精緻な構成が魅力的だけど、衝撃度においては時代の違いを否めない、ところがある。

個人的にはこれより、ミステリではないが直木賞受賞作「青玉獅子香炉」のラストが印象的だった。一見延々と中国の宝がたどった歴史を述べているだけだが、それだけラストシーンの凄みが強調された格好になっている。

桜庭一樹『推定少女』
No.169
角川文庫:2004
☆☆☆

ラノベからの新装版。こういうのがマジックリアリズムの手法を取り入れた作品というのだろうか? 話の主題は少女の家出、でありがちって感じのものだが、宇宙人が出てきたりして全編が不思議な感じ。主人公は田舎出身だが、途中から東京が舞台になるのもこの人の作品では珍しい。

角川文庫版でラストシーンを3パターン収録するようになったらしいけど、「これ違う趣向じゃなくて単にたたき台→リライトって創作過程だよね」って思いながら読み進めて行ったらやっぱりそうだった。この趣向は微妙かも。

松尾由美『ハートブレイク・レストラン』
No.170
光文社文庫:2005
☆☆☆

連作短編集。近隣一帯のかつての大地主で、その後建ったファミレスになぜか幽霊として出てくるようになったおばあちゃんが謎を解く、という趣向。

昔アンソロジーで最後の短編「ロボットと俳句の問題」を読んで、これがもの凄く高い完成度を誇っていたので、さかのぼってきちんとした形で読んでみよう、という形。

他の短編はまあ普通な感じだった。でもこの辺りでばらまかれた伏線が全てラストで結実する、という感じなので、やっぱりちゃんとした順番で読みたかった。やっぱり連作短編は順番に読んでこそ、ですね。

瀬名秀明『第九の日』
No.171
光文社文庫:2006
☆☆☆☆

ロボットを題材にした中編集。最初の「メンツェルのチェスプレイヤー」はもともと本格ミステリを見据えて書かれたものらしい。確かにこの作品はミステリとして極めて高い水準にある。仕掛けも中々見られないパターンだと思う。

もう一つ、「モノー博士の島」も高い完成度。この人、『パラサイト・イヴ』でSFとホラーの融合に成功してるけど、この作品ではSFとミステリの融合に成功してる。凄い人だ。

あと、延々メタ視点、メタミステリに関する考察が差し挟まれるのも特徴かも。この人がメタミステリ書いたらどうなるんだろう、と思った。

ちなみに『デカルトの密室』がシリーズを同じくするものです。版元が違う影響で、時系列的にはこの作品集の間に『デカルト〜』が入る、というややこしい構成になっている。個人的には本作品集を先に読むのがおすすめ。

湊かなえ『告白』
No.172
双葉社:2008
☆☆☆☆☆

デビュー作らしい。そして今年のミステリランキングで軒並み上位にランクインしているらしい。ということで何か凄そうなので買ってみた。

予想を上回る凄さだった。

連作短編集。最初の「聖職者」が新人賞受賞作らしい。これがいきなり凄い。中学校の終業式
の日のホームルームが舞台。といっても「全て」担任の先生の話で進む。つまりモノローグな感じ。ここで事故死とされていた先生の娘が実は殺されたこと、そしてその犯人は自分の生徒、すなわち今話を聞いている人の中にいることを明かす。本文中で犯人が名指しされることはないが、伏線でじわじわと名前が分かる仕掛け。活字で読んではじめて分かる凄さ、だと思う。

この後の短編も、その事件の関係者の誰かを中心として、基本は日記などの独り語り形式で延々進む。こんな形式、思いつかないし思いついたとしても絶対形にできないと思うが、それが形になっている。そして回り回って最後の短編、また最初の担任の先生に戻ってラスト1ページ、ほぼ完璧な伏線回収で終わる。

どう考えても映像化不可能なので、これは読むしかないと思う。
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by fyama_tani | 2008-12-30 12:40 | 本:国内ミステリ

2008年9月くらいに読んだ本

強迫観念か何かのように読んだような気がしないでもないが、実量が大したことない。山篭りでもした方が良いのだろうか。

貫井徳郎『被害者は誰?』
No.155
講談社文庫:2003
☆☆☆

短編集。刑事の主人公が解決できなかった事件を、探偵役の先輩に持ち込んで解いてもらう、というありがちといえばありがちなタイプ。

単純な伝聞という形ではなくて、作中作の形で事件が示される、という点がちょっと変わっているかも。「探偵は誰?」はその中でも珍しいタイプ。ここでは犯人だけじゃなくて事件を解く探偵は誰か? というのも主題になってくる。これは作中作ならではの趣向、って感じがして好み。

小峰元『アルキメデスは手を汚さない』
No.156
講談社文庫:1973
☆☆☆

随所で絶賛されている作品。最近になって復刊されてまた手に入りやすくなったらしい、ということで読んでみた。

いわゆる「今の若いものの考えは分からん」というのが主題になっている作品。30年前に書かれた作品であることを踏まえると、時代が変わっても大人が子供の考えを理解できないのは変わらないんだなあということを認識させられる格好のテキストであることは確か。

だから逆にこれが突出して凄い、とは感じられなかった。乗船人数に関するトリックとか、高校生ならではなトリックが結構面白かったので、そちらにもっと重きを置いた内容の方が面白いかな? と感じた。実際にはこの辺の処理がかなり偶然に頼った形になっているのが微妙。

筒井康隆『富豪刑事』
No.157
新潮文庫:1978
☆☆☆☆

ドラマ化されたことで存在を知って、何となく気になっていたのだが今まで読まなかった。著者はSFでは大御所な人ですね。

4つの短編からなっていて、いずれも大富豪の息子である主人公が金の力を使って解決する、という内容。常識外れの金を右から左へ使える(しかも金だけでなく、有力者とのコネも網羅している)というのは、普通の人間には絶対に不可能なことであって、つまり根本にあるのは超能力者という設定の主人公、と同じなのかなあと感じた。そう捉えると本作品も一種のSFと見なせる。

ミステリとして面白い点は、当時にしてはかなり珍しいと思われる、メタ構成をかなり意識した内容にあると思う。一つ一つの短編いずれにもかなり実験的な試みがあるので、分量の割にはかなり読んだ感になる。その造りが面白いなあと。ドラマがどんなものだったのかは知りませんが、本作はもっと評価されるべき作品だと思う。

北村薫『盤上の敵』
No.158
講談社文庫:1999
☆☆☆☆

この人の書く作品って、一見ほのぼのとしているようで、その実人間の暗黒面の描写には容赦がない、という印象がある。ただ、前者の印象が強いから後者が隠れがちになっているだけで。

そういう意味では、この作品は後者を前面に押し出したもの、と言える。ダメな人も多いと聞くけれど、それは前者のイメージでしか氏を捉えてなかった人なのかな、と思った。

逆に言うと、そこで読者に媚びて毒を薄くしないところが、何度も候補に挙がってついに『容疑者Xの献身』で直木賞を獲った東野圭吾と何度も候補に挙がって未だに獲れていない氏の違いなのかも。大ネタバレなので詳細は書けないですが、この作品、『容疑者~』に負けない話の上手さと大トリックが決まった作品だと思います。特に『容疑者~』を読んだことがあるがこちらは未読、という人は是非。びっくりするから。

筒井康隆『ロートレック荘事件』
No.159
新潮文庫:1990
☆☆☆☆+

『富豪刑事』を読んだからにはSF界の巨人が書いたもう一つのミステリの傑作を読まねば、ということで。

若干微妙なのは、「大トリックがある」という前提で読まないとかなり読みづらい点。意図的なのか何なのか、凄く文章が分かりにくかった。あと、登場人物の描写も画一的な感じ。

まあラストで期待以上のことやってくれましたけどね。『十角館の殺人』のちょうど真逆を行くようなトリック? 系統としては『イニシエーション・ラブ』が近いかな(これ以上はネタバレですね)。これぞ映像化絶対不可能。小説ってメディアはこういうことができるから面白いと感じるのですよ。読んで「?」な人にも作者自身の詳細な解説があるから、安心(個人的には自分でやるべき作業な気がしますが……)。

東川篤哉『館島』
No.160
創元推理文庫:2005
☆☆

ときどき「お館さま」なミステリを読んでみようかと思うことがありまして。瀬戸内海の小島に建つ、地元では有名とされる建築家が立てた建物(ただし物語が始まる前に、その建築家はその館で変死している、という設定)が嵐で孤立するというベタ設定。別に島にはその館しかないわけじゃなくて、普通に人が住んでるから厳密には孤島というわけではないのですが、他の島の住民は一切出てこない、この辺りはリアリティをあえて無視した設定なのでしょう。

最初からずーっと違和感を感じていて、それが最後までぬぐえなかったというのが正直なところ。「ユーモアミステリ」という触れ込みらしいが、自分には全く合わなかった。どの描写も「いかにも狙ってますよ」的なものばかりで、苦痛でしかない。これ全部削ればもっとコンパクトにまとまるのに……と思いながらページめくってた。

館に関する「大トリック」も微妙。現実性が全くないので。もちろんフィクションの世界なので実現不可能なものだって全く構わないと考えているのですが、それだったら実現性とかどうでも良くなるような「理屈抜きで凄い」と感じられるものを見せて欲しい。これは何か中途半端な感じ。
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by fyama_tani | 2008-10-05 11:30 | 本:国内ミステリ

2008年8月後半くらいに読んだ本

最近、小説以外の本もいい加減真面目に読もうかと考えている。

劇団ひとり『陰日向に咲く』
No.153
幻冬舎文庫:2006
☆☆☆☆

芸人が書いた本だけど全然ネタとか関係なくて直球な小説だとか、一時期やたら売れてたとかは知っていたが、正直そんなに期待してなかった。

短編集。サラリーマンがホームレスにあこがれる話「道草」から始まり、登場人物の一部が後の短編でも微妙に重なって……的な連作の体を取っている。

叙述的な仕掛けもあったりで、「どのような話を構成すれば読ませるか」という点において極めて意識的な作品だと思う。小説に対する方向性に乙一と似たところを感じさせるな。

短編集のお手本のような作品で、何も「劇団ひとり」の名前がなくても十分売れる(ここまでは流石に売れなかっただろうが……)と思った。分量も少ないので入門編としても最適。

これが面白いと感じるならば伊坂幸太郎の短編なら『死神の精度』、長編なら『ラッシュライフ』あたりがオススメ。そこからもっとミステリ色の強い『アヒルと鴨のコインロッカー』に行くとか。もしくは乙一の『失はれる物語』から本格のテクニック色強い『GOTH』なんて流れも面白い。

乙一『暗いところで待ち合わせ』
No.154
幻冬舎文庫:2002
☆☆☆

乙一にしては珍しい、中長編に分類される作品。ざっくり言うと殺人事件に遭遇した男が1人暮らしの全盲女性の家に、全盲だからこっそり入り込んで隠れてれば分からんだろ的な考えて入り込む話。

オチはある程度予想可能。どういうオチにすれば途中も読ませるか、ということをちゃんと理解して書いてる人だから安心して読めます。

やっぱりこの人の本格的な長編(連作短編で実は一つの長編でした、というのではなく)を読んでみたい。
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by fyama_tani | 2008-08-31 22:49 | 本:国内ミステリ

2008年7月後半-8月前半くらいに読んだ本

1週間くらい他のことを考えずに本だけ読めたりすると良いのですけれどね。

道尾秀介『向日葵の咲かない夏』
No.150
新潮文庫:2005
☆☆☆

物語冒頭で亡くなった主人公の友人と意外な形で再会するお話その一。

ガチガチのミステリ的構成にファンタジー的設定を持ち込んでくる、というやり方はこの作品以外にもたくさんあると思うけれど、ここまで後味が悪いのはそうないんじゃないかと思う。

その上で大きな論理的破綻がなくきっちりまとめられているのは評価できると思う。好き嫌いが凄い別れる作品じゃないかなあ。

畠中恵『百万の手』
No.151
創元推理文庫:2004
☆☆☆

物語冒頭で亡くなった主人公の友人と意外な形で再会するお話その二。

偶然同じモチーフの作品を連続して読むことになったのですが、『向日葵~』が暗の話だとすれば明、というように全く雰囲気の異なる作品。語られている内容は決して軽いものではないのですが。

解説でも触れられていますが、いろんな要素を詰め込みすぎた結果、伏線が回収しきれず、何か消化不良な印象を与えてしまっているのがもったいない。あと、重要な登場人物がその重要事実を知るに至った必然性が良く分からない(きちんとした説明もされていない)のも難点。ごちゃごちゃしている割には読みやすいのが救いですかね。

三津田信三『忌館―ホラー作家の棲む家―』
No.152
講談社文庫:2001
☆☆☆

ホラーと本格ミステリを高い水準で融合させる作家として最近注目を集めているかもな人のデビュー作だそうな。冒頭読んだだけで確かに本格、というよりかは新本格、つかメタかよって感じで、作中作だの作者自身の本当の仕事内容(当時編集者)に関する記述だのがガンガン出てくる。

でお話の主軸は……。まあこれはホラーでしょうね。ミステリとは違うような。メタホラー? そんな用語があるかどうか知りませんが。
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by fyama_tani | 2008-08-11 18:02 | 本:国内ミステリ

2008年6-7月くらいに読んだ本

長めの作品がまとまった、というのもあるのですが、やる気が出なくてペース落ちてます。平気で1週間くらい何も読まない期間があったりと。

瀬名秀明『デカルトの密室』
No.142
新潮文庫:2005
☆☆☆

ミステリ……というとちょっと違うのかな。教養小説的な要素が強いのかも。後半の議論はそのままアンチミステリに関する議論に置き換えられそう。ロボットものとしても、まあ気軽に読める内容ではない。『すべてがFになる』を明らかに意識しているであろう登場人物の設定があまり好きになれなかった……。

銀林みのる『鉄塔 武蔵野線』
No.143
ソフトバンク文庫:1997
☆☆☆

送電線沿いに鉄塔を辿っていき、そのナンバリングが「1」となった先には何があるか? という問題を解明すべく実際に夏休みの小学生が冒険してみた、という物語。アイデアが秀逸すぎ、ということで昔から気になっていた。

実在の鉄塔がベースになっているので、その写真が載っているのだが、形に関する議論がかなりマニアック。そして律儀に1本1本日記形式で辿っていく。これは流石に飽きた。物語的時間進行で5本一気に飛ばすとかそういう処理が欲しかった。普段文章を書かないオッサンが昔の思い出話をしました、的な文体が合わなかったのかも。

石田衣良『ブルータワー』
No.144
徳間文庫:2004
☆☆☆☆

脳腫瘍に冒され余命いくばくもない中年男性が何故か意識だけ未来世界に飛び、そこの危機的状況を救う的な話。現実世界の問題とのシンクロ感は、『ブレイブ・ストーリー』を思わせる。

舞台設定も適度に複雑でありながら分かりやすく、エンターテイメントの王道を行くような作品です。ただ、終盤の解決策は、「それが確実な方法だけど、並みの人間には不可能だよなぁ……」と思っていたのでそのまんまだったことに「ねーよw」って思った。まあファンタジーだし。

京極夏彦『邪魅の雫』
No.145
講談社ノベルス:2006
☆☆☆

京極堂シリーズはどんどん一見さんお断りな雰囲気になってるなあ……。やはり『絡新婦の理』がピークだった感がある。この作品も綺麗にまとまっているのだが、何しろ長い。犯人像をぼかす狙いがあるとはいえ、ここまで長くする必要があるのかと。そういう登場人物ではなく、読者を試すような試みを入れてくる姿勢は嫌いじゃないけど。

ラストの中禅寺による解決編は、民俗学的薀蓄と実際の事件の構成が有機的に絡み合って、ここ数作品の中では一番綺麗にまとまっていると思う。それだけにそこまでの長さ(ノベルス二段組で約700ページ)が惜しい。

パトリシア・コーンウェル『真犯人』
No.146
講談社文庫:1993
☆☆☆

シリーズ物、なんだけどシリーズ物によくあるような安定感があまり感じられない、という印象をこれには持っている。多分毎回主人公周りの設定が変わり過ぎなことが原因。同じ登場人物に対する描写も作ごとに全然違う(しかも唐突に)なので油断ならないし。

中身としては、当時でよくこんなこと思いついたな、という犯人入れ替えに関心。逆に今だと不自然だと思いますがー。

石持浅海『セリヌンティウスの船』
No.147
光文社文庫:2005
☆☆☆

この人の思考実験的世界観は好き嫌いが分かれるとは思いますが、既存パターンを壊してやれ、という意気込みは素直に凄いと思う。本作は仲間内の誰かが犯人に違いない、というありがち状況において、サスペンス性の付与を目的として一般的にやられる「お互いがお互いを信じられずにどんどん雰囲気がおかしくなってくる」という状況を真っ先に全否定するところから議論がスタートする。で本当に解決すんの? というのがポイント。

動機や犯人像には正直「?」なところもあるが、同時に提示される『走れメロス(タイトルもこれがモチーフになっている)』に関するある解釈は、『走れメロス』読んだことないけど読んでみようかなあと思わせるような、そんな説得力がありました。いや多分読まないんだろうけど。

宮部みゆき『ICO―霧の城―』
No.148
講談社ノベルス:2004
☆☆☆

同名ゲームのノベライズです。個人的に凄く興味のあるゲームだったのでずっと気になってた。ただ、いい加減な記憶だとほとんど一人称で進み、登場人物もかなり限られる、とのことだったのでどうやって小説にすんだろ? とも思ってた。

序盤の展開は見事です。流石宮部みゆき。ただ、イコが霧の城を実際に歩く辺りになるとちょっとゲームにおけるおつかい感をそのままなぞってる感じが出てきてだれた。ゲームがモチーフとなっていることの宿命か。

多島斗志之『少年たちのおだやかな日々』
No.149
双葉文庫:1994
☆☆☆

この人の復刊ペースは凄いよね。もう全部読みきったと思った頃にまた新しい作品が復刊されるみたいな。しかもいろんな出版社から。結構支持してる人多いんだろうなぁ……。

これまで読んできたものとはちょっと毛色が違う気がする。短編集。いずれも中学生男子が主人公というのと、ブラックオチというのが共通してる。一応「意外なオチ」ものなんだろうけど、伏線を綿密に張って、というよりは「世にも奇妙な物語」的(実際原作となったものアリ)な一般的感覚の裏をかくタイプのもの。『玩具修理者』が好きな人なら好きかも。

正直この人の作品の中ではちょっと微妙な印象。「嘘だろ」のラストで描かれる絵が全く変わってしまう辺りがかろうじて好みかなあ。
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by fyama_tani | 2008-07-27 19:06 | 本:国内ミステリ

2008年5月くらいに読んだ本

ほとんど備忘録の域。

矢作俊彦『ららら科学の子』
No.136
文春文庫:2003
☆☆☆☆+

久々に力のある小説を読んだ。これはミステリではないし、また万人受けする内容でもないけれど、絶対押えておくべき一冊だと思った。何でもっと早く読まなかったのか。

東野圭吾『仮面山荘殺人事件』
No.137
講談社文庫:1990
☆☆☆☆

東野圭吾はトリックメーカーとしてもっと評価されても良い。ほとんど同じトリックの別作品の衝撃が凄すぎて、これはそこまで驚けなかった。『ある閉ざされた雪の山荘で』といい、大ネタは大体この人が最初、って気がするのに意外と知られていないのが勿体無い。

パトリシア・コーンウェル『遺留品』
No.138
講談社文庫:1992
☆☆☆

シリーズ3作目ともなるとシリーズとしての流れを優先しだすからだれるよなぁ……、と思いながら読んでいたところにこのラスト。思い切ったことするなあ。つか、話の核となる謎のネタばらしが文庫裏のあらすじに書いてあるってどうなのよ。いくらなんでもひどすぎる。

北山猛邦『『瑠璃城』殺人事件』
No.139
講談社文庫:2002
☆☆☆

真っ向勝負でもいけそうな気がするのに何でSF的設定を組み込もうとするんだこの人。メフィスト賞の宿命か。この大ネタの出し方は谺健二に通じる(つかトリックかぶってるし)。あっちは重すぎて読めんという人にこの人オススメかも。

藤岡真『白菊』
No.140
創元推理文庫:2006
☆☆☆

表題にある絵の謎が主題なのかと思いきや。いやいちおう主題なんだろうけど。「これはひどい」がほめ言葉を地で行く作品だな。ラストの展開は殊能将之のあの作品も真っ青といったところか。

近藤史恵『ねむりねずみ』
No.141
創元推理文庫:1994
☆☆☆

この人の文章には独特の間がありますね。俺は結構好きですけど。時系列順としては『ガーデン』が先、でも刊行順通りに本作→『ガーデン』と読むと探偵今泉のキャラがいっそう際立つかも。
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by fyama_tani | 2008-06-07 21:54 | 本:国内ミステリ

2008年4月くらいに読んだ本

ギリギリ。でも月一ペースくらいではまとめていきたい。

山田風太郎『明治断頭台』
No.130
ちくま文庫:1979
☆☆☆

数年前くらいまでこの人って伝奇とかそういう人だと思っていたのですが、高レベルのミステリも多数書いていたらしい。その中でも最高クラスとされている作品を読んでみた。

明治時代を舞台にした連作短編集。フィクションの世界に史実をうまく織り込んでいく様が凄い。物理トリックを中心としたトリックもまあまあ。でもこちらに考える時間を与えずに一足飛びに解決編にいってしまう構成は微妙かも。

最後に全ての短編が収束するいわゆる連作ものだけど、こういう「犯人」の表出って後発で有名なものがあったような気がするが未だ思い出せない……。あまり好きな形ではないのだけど。

北山猛邦『『クロック城』殺人事件』
No.131
講談社文庫:2002
☆☆☆

メフィスト賞受賞作を久々に読んでみることにする。物理トリックで有名な人だそうな。タイトル的にはお館さま的な雰囲気が感じられる。

終末が決定付けられた世界? 幽霊退治専門の探偵? 「真夜中の鍵」というものが世界の終りを握っているかもしれない? なんだコレ。

良く分からん感じの世界を構築した挙句、ミステリとしては普通の落としどころを用意したというのは狙いなのかなんなのか。もっと大がかりなものを想像していた身としては拍子抜け。だって何が原因で世界が混乱しているかが結構詳しく書かれているから、それ絡みかな……、と。

むしろ「首を切り落とした理由」が凄いかも。そこに至るまでの論理は若干破綻しているような気がするけど、答えはオリジナリティあふれる感じ。これはそう簡単に思いつけない。いろいろ見る感じではあとの作品の方が仕掛けは凄いらしいので、もう一作チェックしてみようか。

鮎川哲也『黒いトランク』
No.132
光文社文庫:1956
☆☆☆

本格ミステリを代表する作品として有名ですね。犯人が持つ鉄壁のアリバイを主人公の鬼貫警部がどう崩すか? が主題。

はい頭の悪い私には無理でした。あと鉄道に手荷物預けがあった時代の話なので、その感覚がない自分としては全然想像できない。これはメモを用意して鬼貫と一緒に整理していくことで始めて楽しめる作品だと思う。もちろん鉄道時刻表をチェックすることも必須。でもその時刻表、この版は変なところに入っていて、非常に分かりにくい。最初にまとめて載せて欲しかった……。

あと、鬼貫って最初からこの事件の担当という設定ではないのね。知り合いが巻き込まれたっぽいから俺が捜査する、って凄く無理矢理な設定ではないだろうか……。むしろ逆で外されるような。そんなリアリティ完全無視が許された時代なんだなあ、と。

藤岡真『ゲッベルスの贈り物』
No.133
創元推理文庫:1993
☆☆☆

人前に姿を現すのはビデオ出演のみ、という謎のアイドル「ドミノ」をある事情から探さなくてはいけなくなった主人公、それと冒頭のドイツ軍Uボートに乗った日本人大佐とはどういうつながりがあるんだと。

とにかく人を驚かせるためのギミックをいろいろ仕込んでみました、という作品。一つの作品としてのつながりは二の次みたいな。この開き直った感じは嫌いではない。うーん、でもちょっともったいないかな。「ドミノ」が作られた経緯からぶれずにしっかり描ききった方が面白い作品ができたような気がする。

パトリシア・コーンウェル『証拠死体』
No.134
講談社文庫:1991
☆☆☆☆

「検屍官」シリーズの二作目。売れっ子女流作家が自宅で惨殺された事件を主人公の女性検屍局長ケイが調べるみたいな話です。

久々に多方面からの切り口が重厚な作品を読んだ、という感触。科学捜査についての描写にも定評がある作品だけど、ある登場人物が「何でどうやって自殺したか?」という謎とそのトリックは感心した。同じく科学捜査が出てくるリンカーン・ライムのシリーズほどの派手さはないけれど、確かな構成力で読ませる作品。幸い100円で手に入りやすいシリーズなので、ちょっと追ってみようと思う。

伊坂幸太郎『チルドレン』
No.135
講談社文庫:2004
☆☆☆

行動や考えにちょっと変わったところがある男、陣内とその周りの人たちを中心とした短編集。陣内の学生時代の話とその後家裁の少年調査官になってからの話が混ざって出てきます。少年調査官を主人公に据えた話って珍しいかも。

同じ作者の短編集なら、『死神の精度』の方が好みかな。本作も結構凝った構成なんだけど、ちょっとパンチに欠けるような気がする。

「チルドレンII」のラストに初期の伊坂作品的な雰囲気が感じられて個人的なお気に入り。
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by fyama_tani | 2008-05-11 14:33 | 本:国内ミステリ

2008年3月くらいに読んだ本

本読むペースが落ちている時ってバイオリズム的に躁か鬱かというと後者なんだろうね。多分。良く分からないけど。

桜庭一樹『赤×ピンク』
No.126
角川文庫:2003
☆☆☆

祝直木賞。ということでもともとラノベで刊行されてた作品が一般文庫で出たから読みましょう、という流れ(店頭で見るまでこんな作品があること自体知らなかったのですが <無知)。

現代の東京を舞台にしつつ多分に非現実的な雰囲気なんだけど、よくラノベで通ったな、という印象。この人の好きな三部構成ものだけど、ピークが最初の章「”まゆ十四歳”の死体」で来ちゃってる(何故このタイトルなのかというのが明らかになる部分)のが微妙かも。最後に盛り上がりはあるけど、「○○かよっ!」みたいな。

この人の作品は必ず一つは「巧いな」と思わせる文章があるのが良い。本作なら、舞台の廃校の場所を説明する際の、「その道は説明しづらく、一度行っても、二度目のとき迷ってしまうほどわかりにくい。」この一文だけで現実と非現実の区分けを完璧に説明しきってるものなあ。

奥田英朗『イン・ザ・プール』
No.127
文春文庫:2002
☆☆☆

このシリーズの第二作『空中ブランコ』が直木賞獲ってますね。シリーズ最初の連作短編集。風変わりな精神科医、伊良部のもとに来る風変わりな患者たちの顛末を描いたものです。

常識はずれな行動を取り、患者の訴えを解決しようとしているのかしていないのか良く分からない、なのに何故か解決してしまう、という流れは、京極夏彦の多々良センセイシリーズを思わせますね。こちらが精神科医と一見まともそうな職業であるのに対し、多々良先生の方は妖怪研究家と訳分からなかったり(要はプー)、スケールの大きさという点から俺は多々良先生の方が読み物として面白いと感じたかな。

患者に影響されてなのか、伊良部が短編ごとにいろいろなことに手を出しているのですが、そのいずれも別な患者のときに出てこないのがちょっともったいないというか。ひきずって最後の頃にはいろんなことに手を出しまくって訳わかんなくなる、という構成の方が面白い気がする。書く方は大変だろうけどね。

法月綸太郎『頼子のために』
No.128
講談社文庫:1989
☆☆☆

この人の『生首に聞いてみろ』での論理の流れが個人的に好みだったので、この人の転換点とされるこの作品を読んでみた。まず、「娘を殺された。警察は当てにならない。だから自分で調べて犯人を見つけた。復讐する。計画は成功した。自分は自殺する」という内容の一人称手記から入り、その手記をなぞるかのように起きた事件に対して手記を元に主人公が再調査する、という初期新本格にありがちな展開がなされます(この作品がその「初期新本格」ですけど)。

この形式をとる以上、「世間一般では終わったとされる事件を何故事件とは関係ない第三者が再調査する必要があるのか?」という問題から逃げられないと思うのですが、本作はその辺りの処理が巧いです。マスコミ対策、ねぇ……。

オチが割と想定の範囲内だったのと、そこに至るまでの流れも型通りな感があったのがもったいないかな。犯人との対峙における処理も疑問が残った(というか自分があんまり好きなパターンじゃない)。

中町信『空白の殺意』
No.129
創元推理文庫:1980, 2006
☆☆☆☆+

復刊三部作のラスト。まあ作品同士に関連性はないけど。この作品は、高校野球出場で一躍県下に名をとどろかされた新設校の教師が変死体で発見されるところから始まります。その捜査過程で、その高校が甲子園に行くためにある工作をしたのではないか、という疑惑が出てきて、更には次の甲子園に出場することが決まっている(別な)高校に対しても疑惑がかかったりと典型的な「登場人物全てが疑わしい」パターン。その過程でどんどん人死にが出ます。ちょっとやり過ぎの感もあるけど……。

高校野球って結構特殊な世界かな、という思いが昔からあって、これを題材にした作品とか面白そうだよなあと思いつつちゃんと扱ったものを読んだことなかったのですが、これはそういう意味でストライク。高校野球を題材にしながら出てくる登場人物のほとんど大人たちで、実際の選手は出てこない(置いてきぼりにされてる)あたりもこの世界の怖さをうまく演出してるのかなあ、と。

でラストはお決まりの叙述なのですが、「模倣~」「天啓~」に比べるとちょっとトーンダウンというか、型通りかなあと。でもヒネリはあって、こういう感じで着地すれば、読む前と後でジャンルが変わったように感じさせられるのかあ、と変に関心してみたり。
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by fyama_tani | 2008-03-30 21:28 | 本:国内ミステリ

2008年2月くらいに読んだ本

1月に割と読んだ反動からか、2月はさして読まず。実際3月に入ってから読んだ本混ざってます。

伊坂幸太郎『死神の精度』
No.122
文春文庫:2005
☆☆☆☆

人間を装って1週間ある人間の調査を行い、その人物の「死」を決定する死神が主人公の連作短編集。『アヒルと鴨のコインロッカー』あたりを読むとこの人相当本格ミステリにも造詣が深いんだなあと思うのですが、この作品もガチガチの山荘もの「吹雪に死神」から独自のロジックのキレを味わう「死神と藤田」、そして日常の謎的な表題作と「死神対老女」などなど、(有名作品へのオマージュとも取れる部分も含め)ミステリとして極めて高い完成度を持っているのではないでしょうか。

個人的には「死神対老女」での謎の開陳はもう少し引っ張って欲しかった。作品内での謎と他の短編との関係と両方の点で。

普段全く本を読まない人が何読みましょう? という時の最初の1冊としてまさにうってつけだと思う。

岡嶋二人『99%の誘拐』
No.123
講談社文庫:1988
☆☆☆☆

誘拐って実際の犯罪ではもっとも頭の悪い手段だとされているけれど、ミステリの世界では傑作と呼ばれるものが多いのが個人的には凄く不思議。本作品もそんな「誘拐もの」の系列にあるうちの一つ。

またこれら「誘拐もの」の凄いところは、「まだこんな手があったのか」みたいな驚きがどれにも備わっているという点でしょうね。この作品では、犯人が身代金を受け取らなくても目的が成立する誘拐、と犯人が直接には一切関与しないで被害者を誘拐する、誘導誘拐みたいなところがそうかなあ。

コンピューターを駆使した犯罪、という点も読ませどころなのかもしれないけれど、時代が時代だからねぇ……。ちょっと今読むのは苦しいかも。

貫井徳郎『プリズム』
No.124
創元推理文庫:1999
☆☆☆☆+

時々「解決に至るまでの道筋が凄く面白かった」と思えるような作品があって、例えば最近読んだ中では『生首に聞いてみろ』がそうだったのですが、これも読んでる途中から論理の流れが面白いと感じました。

超挑戦的な趣向がかかっているので、あんまり人に勧める気はしないですが……。ミステリに読みなれてない人がいきなりこれ読んだらジャンルそのものが嫌いになりそうな、そんな危うさを内包した作品だと思います。

米澤穂信『犬はどこだ』
No.125
創元推理文庫:2005
☆☆☆

探偵事務所を開業して、そこに思いもかけない依頼が来て、それの調査をしているうちに更に大きな事件に巻き込まれて……、みたいな割とご都合主義的な王道探偵もの、と取れるでしょうか?

この作品はネット上でのやり取りが一つキーになるのですが、数年前の作品なのにもう色褪せてきてる感じですね。この世界は変化が早いから怖い。この位になるとリアルタイムでどんな感じだか分かるので、凄い(描写も物語の中での使い方も)巧いなぁ……、と素直に思いますが。流石テキストサイトを発信してた経験があるだけの人ですね。

私立探偵最初の事件、という観点では『ガーデン』、全く違う二つの案件が思わぬところで交差して、という観点では『症例A』、という自分の中ではゆるぎない作品があるので、強くプッシュしたい、という作品ではないのですが、ライトにお決まりの文法を読むという意味では悪くないのではないでしょうか。
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by fyama_tani | 2008-03-08 22:58 | 本:国内ミステリ

嶽本野ばら『下妻物語 完―ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件』

No. 121
小学館:2005
☆☆☆
「けど、井の中の蛙とは、よくいったものだよな。胃袋の中にいたんじゃ、何も買えないものな。喉を通って口から出るか、ケツの穴から出るか、どちらにしろ外の広い世界に出なけりゃ、欲しいものは買えずじまいだ」

これ、「胃の中の買わず」と勘違いしてるってすぐに変換できました? 作中でも感心されてますが、物凄いミスリードです。

映画化された『下妻物語』、その続編です。キャラクター勝ちだよなあ。ロリータ少女はともかく、こんなヤンキーでも下妻ならばいるかもしれない、と思わせるその絶妙の舞台設定がナイス。

サブタイトルにもある通り、ロリータ少女の桃子とヤンキーのイチゴが、今度は殺人事件に巻き込まれる、と。しかし登場人物は全てバカなので、まともな議論を期待してはいけない、という作り。

前作では比較的まともに書かれていた桃子の祖母もトランス踊ってたりするし、BABY, THE STARS SHINE BRIGHTの礒部社長もガンオタであることが発覚したり……もう締める人がいないというのも小説としてどうなのかと思いますが。ってか、礒部社長って社名含めて思いっきり実在の人物なわけだが、いいのかこんな書き方して。

これで完結、ということで物語を着地させるために、桃子の精神的な成長過程を織り込んだ作りになっています。そのためか、ここまでぶっ飛んだ登場人物たちの割には小さくまとまってる、という印象も受ける。この路線でずっと書き続けてくってのもそれはそれで微妙だし、2作ですっぱりやめる、ってこと自体は悪くないと思うけど(それに、作者逮捕されちゃったし)。あー、でもこの後すぐに開通するつくばエクスプレスでアクセスが飛躍的に良くなった後の設定も読んでみたいかも。秋葉原の書かれ方も若干変わってくるだろうね。

ミステリとしては、ある作品のネタバレが思いっきりされていることに注意。超有名作だし、「そのくらい読んでおけコノヤロウ」という作者のメッセージなんだと思います。ミステリとしての骨格をlこの作品に求めちゃいけないんだろうし。でも桃子がそれなりの量のミステリを読んでいるというのは何か不自然な。『黒死館殺人事件』について語れる高校生とか凄く嫌だ(でもちょっとうらやましい <未読)。

関連本→
舞城王太郎『暗闇の中で子供』:これもミステリっぽく見せておいて、その実ミステリを期待してはいけない作品。というかこれこそ「アンチミステリ」だと個人的には思うのだが。
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by fyama_tani | 2008-01-27 22:31 | 本:国内ミステリ