カテゴリ:本:その他( 12 )

桜庭一樹『ブルースカイ』

No.93
ハヤカワ文庫JA:2005
☆☆☆☆+
 肉の焼けるいい匂いが漂ってくると、<アンチ・キリスト>は悲しそうな顔のまま涙を拭いて、わたしから手渡された兎の肉をそうっと口に運んだ。そして泣きながら微笑んだ。どうやら仲直りらしかった。

会話が全くなく、シンプルな表現の積み重ねのみで完璧に描写しきっている。最近読んだなかでも屈指の美しさを誇る文だと思う。

この前直木賞候補(本作ではないよ)にも挙がってましたね。デビュー作がライトノベルだったというだけでかなり貶されることも多い人ですが、前例なんていくらでもいますし、がんばってもらいたいものです。

現在ライトノベル系レーベル以外から出ていて文庫化されている(おそらく)唯一の本作はかなり実験的な作品。3部構成で、魔女狩り政策下の中世ドイツ、近未来のシンガポール、そして現代の日本とそれぞれでガラリと世界観が変わり、時々差し挟まれる謎めいた会話、そして「ブルースカイ」という符号が作品全体をつなぐ鍵となっています。細かい描写あたりはRPGとかでありそうな感じを踏襲した印象を受けるというか、そういう意味でリアリティ最優先ではなさそうです。

第1・2部ともに完成度は中々高いながら、単独では消化されない伏線も結構残っていたりして、第2部終盤で「ブルースカイ」の正体が分かってくるあたりから第3部で全ての回収が行われるのかと思いきや、あっけない幕切れを見せる第3部。この点をもって本作をうけつけないという人も多いんじゃないかと思います。

私はかなり好意的に、これは意図的なものだと考えていますが。本作は魔女狩りの影から逃げつつ、自分の出生の謎に迫らんとするマリーの話でもなく、近未来において絶滅したとされている「少女」と自分たち「青年」との関連について議論するディッキーの話でもなく、ブルースカイの最後の一瞬を描いた作品でしょう。ホラ、○○○(ネタバレ)が見えるって良く言うじゃないですか。

各々の描写には過去の有名作品を思い起こさせるものもあったりして、近年のSFやミステリを総括したような感じを受けます。「これはこの作品のオリジナルだ!」みたいなものはないのですが、極めて高い完成度で読ませる作品です。

関連本→
殊能将之『キマイラの新しい城』:例えば、第1部のマリーと<アンチ・キリスト>の立場を逆にするとこの作品のメインモチーフになるなあ、と。これはばかばかしさの度合いが凄い。
鈴木光司『ループ』:『リング』『らせん』ときた後のこれはギャップが凄かったなぁ……。そんなに面白いとは思えなかったけれど。第2部はこれを前提にしたかのようなブラフが一つ読ませどころだと思う。
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by fyama_tani | 2007-07-22 17:45 | 本:その他

滝本竜彦『NHKにようこそ!』

No.92
角川文庫:2002
☆☆
「時々いるんだよ。怖いもの見たさで集会を見学に来るヤツ。あんたたちみたいな馬鹿な学生とかな。……それで、どうだった? 面白かったか?」

宗教勧誘が来てもその人が二度と顔出せなくなるくらいに撃退したり、そもそも宗教勧誘の人にすら道ばたで声かけられない俺は勝ち組なのか?

昔、この人のデビュー作を読んだ時には、「引きこもりがどうのこうの言って、どうせ下らない作品なんじゃねーの?」って思って半分以上ネタのつもりだったのです。しかし、そのデビュー作、『ネガティブハッピー・チェンソーエッヂ』は意外なまでにしっかりしていて、一定以上の満足を得ることができた。じゃあ第2作のコレは? となった(この間かなり時間が空いてるけど)。ちなみに、タイトルのNHKは、「日本ひきこもり協会」の略。主人公の引きこもり、佐藤が妄想の中で考えた組織。

結論。もの凄く下らなかった。ネガティブな意味で。終始ダメ人間の視点でいっているし、それは一部の人たちにとってはもの凄く偏見チック。いくらなんでもドラッグはないと思う。その手の知識ももの凄いいい加減だしね。まあダメ人間が知識豊富ってのもおかしいとは思うが、この場合計算されたものというよりは純粋に作者の勉強不足って感じがして痛い。

多分、前作からテーマが全く変わっていないことが一番の失敗要因だと思う。現代の若者には分かりやすい「悪者」が存在しないから悩むんだ的なことを、じゃあ具体化させたらどうなるんだ的な感じで描いたのが前作のチェンソー男だと解釈しているのだが、そういうことを一切やめたら? というのが本作。でもそしたら何がしたいのか分からなくなるよ。

一応回答らしきものが終盤示されるのですが、もうそれだけで良いじゃん、と思った。そこに至るまでに何も無く、単に「書きたいことが見つかった」→「でもその内容だけじゃチラシの裏一枚で終わっちゃう。そういえば最近裏が白紙のチラシって減ったよね」→「じゃあ俺日記から適当に抜粋して埋めるか」という思考展開で作られた、と推察。

なんつうか、いろんな意味で期待通りな作品でした。もう良いや。というかこの人書くのやめちゃったみたいだけど。

関連本→
辻村深月『凍りのくじら』:語呂合わせにこだわる辺りに共通点有り。でも完成度は段違い。
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by fyama_tani | 2007-07-15 21:38 | 本:その他

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない-A Lollypop or A Bullet』

No.77
富士見書房:2004
☆☆☆
「おとうさんにしか殴られたことないんだから!」

この科白はやっぱりアレを意識してるんですか。

私的には桜庭一樹は今年くらいにかけてもっと有名になる書き手さんじゃないかと思っているのですが、本書はそれを象徴するが如くの、ラノベとして最初出て、その後単行本として最近再刊された一冊。乙一と同じパターン(冲方丁も同じカテゴリか?)ですね。ちなみにラノベ版なら持ち歩きやすい上に約3分の1の値段で手に入るので極めてお得。ただし表紙とか途中のイラストは思いっきりそっち系という諸刃の剣。

一般的にラノベと呼ばれるものを全く読まないので、どの辺りの立ち位置が一般的なものであるか良く分かっていないのですが、本書は極めて一般的な作品であると感じました。二人の女子中学生を通して、両者の成長を描く、と思いきや……みたいな内容。

この前読んだ『少女七竈~』と比較すると伏線の張り方が甘かったり、描写が直截的過ぎに感じるところがいくつかありましたが、それは発刊順の問題でしょう。基本救いようの無い結末ですが、以外に良い人が多かったり、ちょっとした謎解き要素がアクセント(「答えられない問題」のエピソードは、「落語かよ!」って思いましたが)っぽくあるのは好印象。

あと、この人はうらぶれた片田舎の描写が巧いですね。変に美化するなんてのは論外ですが、笑いに走ることなく淡々とこれだけ書けるというのは結構貴重かも。

関連本→
北村薫『秋の花』:これに限らず、少女二人が出てきて片方が欠ける、という設定は比較的多い。
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by fyama_tani | 2007-04-29 22:37 | 本:その他

桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』

No.71
角川書店:2006
☆☆☆☆
「美しい人は、都会に向いている、と、そんな気がね。つまり変わっている生きものは。頭がよすぎるのも、悪すぎるのも。慧眼がありすぎるものも、愚かすぎるものも。性質が異質で共同体には向かない生まれのものは、ぜんぶ、ぜんぶ、都会にまぎれてしまえばいい、と思っていてね。ははは」

なるほどー。私が片田舎のそれまた片田舎から、片田舎の県庁所在地に早い段階で出て、今は日本の首都に住んでいるのはこういう理由が背景にあるのかもしれません。頭悪いし。で、次は世界の中心? それは流石に無いか。やる気無いから。

著者はもともとライトノベルを書いていた人です。最近だと森絵都がこれだと思うのですが、「最初は児童向け作品を書いていて、一般向けにシフトして一気に活躍の場を広げる女性作家」に連なる新たな人だと思います。乙一あたりが出てきた時にはこれからはこの男性版がはやると思ったのですが、どうもそうはならなそう、というか執筆ペースが遅かったり(乙一)、ターゲットを後ろ向きに絞ってしまったり(西尾維新)で微妙な感じがします。

閑話休題。

基本は連作短編集です。旭川の街を舞台に、私生児として生まれ、その美貌も相まって町でちょっとした有名人になっている少女川村七竈を中心に、話ごとに語り手が微妙に変わって進行するロンドの形が取られています。

帯にもあるように、カテゴリ分けするなら恋愛小説が妥当なのかもしれませんが、トリッキーな書き方がされていたり(二話で取られている二重叙述が最たるものか。ちょっと乙一っぽい)、七竈は鉄オタで自宅には模型の広大な線路が敷かれているという設定だったりと、どことなくズレた雰囲気。その微妙な脱力感が良いです。

舞城王太郎の『世界は密室で出来ている』を読んだ時に、現代において片田舎の学生をメインにした話をやるなら若干破綻したくらいの世界設定が必要不可欠だなと強く思ったのですが、本書を読んでますますその思いを強くしました。主人公の造形だけでなく、後半にかけて「登場人物が増えてくるのにどんどん世界が狭くなってくる」という趣向においても(詳細はネタバレになるが)それが鮮明に示されています。そういえば昔、「ちびまる子ちゃん」の長沢くんの中学時代を描いたという凄まじくニッチな作品(ちゃんとさくらももこが書いてる)を読んだことがあるのですが、後者はそれの終盤に通じるものがあるかも。

とにかく、この一年くらいでもっと有名になって良い人だと思いました。かなりオススメの部類です。

関連本→
舞城王太郎『世界は密室で出来ている』:両作品を合わせて読むことを強くお勧めします。
宮部みゆき『心とろかすような』:同じ○○○の描写でも作品世界に合わせてかなり違うのだなあと。どっちも綺麗にはまっていると思います。
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by fyama_tani | 2007-03-18 22:25 | 本:その他

恩田陸『ねじの回転―FEBRUARY MOMENT』

No.49
集英社文庫:2002
☆☆☆
 俺はただの変人だ。法華経にかぶれ、紙の上の戦争を夢想した偏屈な男に過ぎない。

それを実現させてしまったというのは偉大な事なのか、それとも犯罪的行為なのか。

舞台はタイムトラベルの技術が完成したとされる近未来。でも時代設定は昭和初期の日本。というのは、タイムトラベルの技術を用いて過去の改変(「聖なる暗殺」と作中では称されている)を行った結果、もともとの時代に原因不明の難病(HIDSと呼ばれているらしい)が流行ってしまい、人類滅亡の危機になった、さあどうしようという事になり、その解決策として挙げられたのが、1936年2月26日の東京、いわゆる「二・二六事件」に介入し、「過去の修復」を行うということで、だから近未来でありながら昭和初期の日本で物語は進行する、というそんなSF。

ああややこしい。

で、「過去の修復」を行うためにその未来な人たちは協力者をその時代の人物に求めていて、それで選ばれたのが安藤輝三大尉・栗原安秀中尉・石原莞爾大佐の3人だった。

と言われてこの3人が何者か分かりますか? あと、安藤・栗原が陸軍皇道派に対して石原は敵対勢力の統制派だと即座に理解できたりします? まして、その統制派のドンこそがあの東条英機で、でも東条と石原の仲は異常に悪いとか知ってます?

この辺りは日本史の教科書でもあまり書かれていない事なので、知らない人がほとんどでは。事実、俺も栗原安秀は知らなかったし、襲撃された人物の中に鈴木貫太郎(後に太平洋戦争最後の総理大臣になる)がいたということも知りませんでした。

で、何でこんなことグダグダ書いているかというと、そういった知識を前提にしているかのように物語が進んでいくんですよ。言い換えると、未確定要素があまりに多い。ある面に対してはちゃんと答えが提示されていて、一見それだけを見ると綺麗に決まっているような気がするけれど、「じゃあこの件はどうなったのよ?」と突っ込み始めるとキリが無い。そもそも、「何で二・二六事件に介入する必要があったのか?」という点から釈然としません。日本近代史の中では最も不可解な点が多い事件の一つであるという点は否定しませんが、全世界的に見て(介入している未来人は、国連職員という設定)重要な事件かどうかというと怪しいものです。早い話が軍の内輪揉めですからね。

ある程度背景を知っているので、雰囲気的にはそこそこ楽しめたのですが、全く知らない人が読んだらどう感じるのでしょうか。実在した人物とは考えずに、純粋なフィクションとしてよんでしまうのでしょうかねえ。

関連本→
宮部みゆき『蒲生邸事件』:これも二・二六事件を扱っている、という事で頻繁に比較されている。こちらはメインに架空の陸軍大将を据えていて、純粋なフィクションという立場を取っている。個人的には、作品の出来はこちらの方がずっと上だと感じた。
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by fyama_tani | 2006-11-02 23:47 | 本:その他

宗教と神々を研究する会編『決定版! 世界の宗教がとてもよくわかる本』

No.21
廣済堂文庫:2006
☆☆

導入本っつーよりトリビア本では。

留学してた先輩が「海外の人と話をするには向こうの宗教に関する理解が無くてはいけない」と言っていて突然宗教に関する本を読み始めていた事があったのです。それに影響されて国際人となるべく宗教を学ぼう、と思ったのは嘘ですが、歴史・文化の一部という観点から宗教を見るというのは前々から興味があったのは本当で、だったら専門書読めよという話ですが、向学心が無いからこういう中途半端な本に手を出すのですねこの人は。

3大宗教の成り立ちとか主な宗派とか、適当にだったら知ってる、という感じで、その域を出ていないという感じです。もちろん細かいところで「へぇそうなんだ」という所はあるのですが、そこから何かつながるという事は無かったですね。高校時代日本史選択だったわけですが、その時のおぼろげな記憶で仏教の項がほとんど既知になってしまうってどんな薄さですか。

自分がニュース見なさすぎというせいなのかもしれませんが、最終章で述べられる現在の紛争・内戦を宗教的な見地から解説するというのはそれなりに面白かったですね。でもこれも真面目に新聞読んでる人とかにすれば当たり前の事なんだろうなあ。

ちなみに宗教を帰依の対象とは捉えられないです。でも、宗教の勧誘に対して話題をすり替えて論破して追い返すという現状は、どことなく格好悪い。どうせやるなら相手の理論ベースで「いかに意味の無い事か」というのを証明してこそでしょう。
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by fyama_tani | 2006-07-02 21:49 | 本:その他

大崎知仁『屋上探偵―オクタン』

No.19
ジャンプJブックス:2006
☆☆
 明斉館高校は広い。
 三千人もの生徒を抱えているわけだから、当然めったやたらと広いのである。(後略)

確かに大規模校には入るけれど、描写から察するにこの広さは5000超のそれだと思うぞ。

明斉館高校新聞部が発行する裏新聞「明スポ」、売り上げ低迷が続く状況を打破するために立てた目玉企画は屋上のトラブルシューター、犬村元貞の密着取材だった。という何だそれみたいな設定はとりあえずおいといて。

3つの短編から成っていて、犬村のところに次々と依頼が舞い込んできて、それを次々と解決する、というまあよくあるパターン。謎解きらしきものを出しているつもりなのかもしれませんが、基本はなるようになる、といった感じの事件です。犬村の読書好きという設定をもっとこの部分に積極的に生かして欲しかったですね。

マンモス校に微妙に関わったことがある立場の自分的には、明斉館高校の描写は悪くないと思います。ただ、冒頭でも書いたように、3000人は少ないよ。あと高校だけじゃなくて、上に大学があるなり下に中学校があるなりしたほうが(作中でこれらのディテールを書く必要は無いと思いますが)よりリアリティが出るかな。

ラストは……。無理矢理連作短編にする必要性があったのでしょうか。この手の話はグダグダのまま続けていくのがベストでしょう。文学賞には絶対通らないけれど商業ベースには乗るというスタンスはプロの作家の特権ですし。伏線がほとんど無い上に少しその手のことに詳しい人ならば絶対不可能だと分かるトリックは取ってつけた印象しか与えていません。

関連本→
森博嗣『すべてがFになる』:とにかくグダグダで続けていく成功例。10作あるうちの第1作を挙げる。
古処誠二『UNKNOWN』:キャラの色づけにしか用いられていないかと思っていた小道具にこんな意味が。この位うまく使われていれば文句無いでしょう。紹介作のミントタブレットに対応。
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by fyama_tani | 2006-06-20 22:18 | 本:その他

柳美里『ゴールドラッシュ』

No.16
新潮文庫:1998
☆☆☆
「ぼく、金の延べ棒持ってるんだ。ほしい?」

今の時代だったら使いやすさの点で現金の方がよっぽどアドバンテージがあるでしょうね。

10年以上前にこの人が書いた文章を読んだことがあって(内容は忘れた)、「凄い綺麗な日本語を書く人だなあ」と思い、その後数年放置されていて、神戸児童殺傷事件と一緒に紹介されていたのがこの本だったはず。その後『命』とかそのへんのエッセイ集を出している状況を見て「何だかなあ」と思ってそのまままた放置、そして最近古本屋で見つけて当時を思い出して購入して読むみたいな。

主人公の少年はドラッグをやっている、という設定なのですが、実際にそのことが描写されているのは最初の少しだけ。しかし、それが全体を覆う大きな伏線となっているというのがポイントだと思います。少年の心の闇にスポットを当てているような作りであって、その実非常に冷たい視線で描いている、そんな気がします。最たる例は一貫して地の文に少年の名前が出てこないということですかね。だからといって名無しの存在ではない、会話文からは少年の名前は丸分かりなのです。あと、地の文において複数人の思考がシームレスに切り替わる様が、少年の混沌とした(見も蓋も無い言い方をすると頭の不自由な)考えとシンクロしているようで、作品に独特の味を与えています。

それにしても、作中で少年が立てた計画とかもう少しうまくやれるんじゃないかという気がするのですが、中学生程度だったらやっぱりこれ位が限界なんでしょうかね。

関連本→
貴志祐介『青の炎』:似たようなテーマを倒叙物のミステリに昇華。やっぱり主人公の頭はそんなに良くない。
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by fyama_tani | 2006-06-11 10:54 | 本:その他

嶽本野ばら『下妻物語―ヤンキーちゃんとロリータちゃん』

No.14
小学館文庫:2002
☆☆☆☆+
その人は人間的に、駄目親父と比べればレベルというか、立っているステージが違うのでしょう。私は新しい家庭を選択することが自分にとって特になることは解りきっていました。ですが、私は駄目親父と暮らしてみたかったのです。だってその方が大変なことに巻き込まれることはあるにせよ、何かと笑えることも多く、楽しそうだったものですから。

凄い真面目なつもりなのかもしれないが全体的に何か変。

主人公がロリータ系とヤンキーの女子高生で、舞台が茨城の下妻、これだけでまともな話を期待する方が間違っているというものです。この縛りで教養小説とか書けたらそれはそれで凄いな。何が凄いか良くわからないけれど。

いきなり冒頭から50ページ以上にわたってロリータ少女の桃子の一人語りが延々続いたかと思えば、ヤンキー少女のイチコの方も突っ込みどころ満載というか、全般的に登場人物頭悪すぎです。下妻、もっと言うと北関東の田舎ってこういうレベルだというのを知ってるから、素直に笑えない(通常の価値観で考えると嘘臭くも見える描写だが、意外にリアルだと思う)自分が悲しい。

こういう馬鹿小説において最も難しいのは落ちですね。ここで奇麗事にまとめようとすると大体失敗に終わる。むしろ個人的にはグダグダで終わってこそと思うジャンルです。本作はそれでもまとめようとしている感はあるものの、まあ悪くは無いんじゃないでしょうかね。ここでこうなったらつまらんと思った部分を期待通り裏切ってくれましたし、実は巧妙な伏線が張られていたことが分かったり、テキストとしてもレベルが高いと思います。一人語りで延々続くという構成上かなり読みづらいですけれど。

関連本→
京極夏彦『どすこい』:馬鹿小説といえばまさにこれ。もっと頭の悪い世界を求める人に。
舞城王太郎『阿修羅ガール』:前半部分の馬鹿っぷりは通じるものがある。というかこっちの展開はまさに奇跡。それだけに「綺麗にまとめようとして失敗」という結果になっているのが惜しい。
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by fyama_tani | 2006-06-03 21:56 | 本:その他

機本伸司『神様のパズル』

No.12
ハルキ文庫:2002
☆☆
「TOEの具体的な中身について、今これ以上話せない。発表もできない。容易に想像できると思うが、社会的、政治的な問題に触れてしまう恐れがあるので、扱いが難しいのだ」

フェルマーの最終定理じゃないんだから。

「宇宙を作ることは可能か?」という命題に挑むSF、という事になっています。そこで出てくるのが16歳にして大学に飛び級入学(舞台設定は近未来の日本)した天才少女。9歳にして素粒子論(だっけ?)の新理論を発表して、それが応用された新しい加速器が建設されているのだそうな。まあそういう話ですので、作中には物理の基礎理論に関するディスカッションがそれなりの量で出てくるのですよ。

でも、何ていうか全体的に甘いんだよなぁ……。まず、舞台は大学のゼミという事で、研究室内でのディスカッションが中心になっているのですけど、登場人物が第一線で研究しているという感じがまるで無く、本物さん(瀬名秀明とか森博嗣あたりね)が書いたものに遠く及ばないという印象を受けました。こういう世界に縁の無い人だったらあまり気にすることではないのでしょうが……。

そして理論部分が薄いです。本当に可能かとかいうのはまるで無視して良いとは思うのですよ。ただ、もっと「それっぽく」ディテールを詰めてほしかった。ちゃんと語られるのは俺みたいな物理のど素人(宇宙に対する研究なんか金の無駄だと思うような人です。タルコフスキーじゃないですけれど)でも知っているレベルで、一歩踏み出すと冒頭の引用文みたいに「分かっているけれど今は言えない」とかで逃げる。その辺りは、主人公綿貫の日記という体裁もうまく利用していると言える(綿貫は物理に関して何も分かっていないという設定)のですが、だったら全体の構成をもっと不連続的に汚くすべきだった。

関連本→
京極夏彦『ルー・ガルー―忌避すべき狼』:何で天才少女というと必ずハッカーなんだろう?
M・クライトン『ロスト・ワールド』:素人にも説得力を持たせるにはこれくらいディテールの書き込みが無いと。ちなみに映画より原作はずっと重い。
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by fyama_tani | 2006-05-28 22:05 | 本:その他