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殊能将之『キマイラの新しい城』

No.73
講談社ノベルス:2004
☆☆☆
「幽霊には重力の方向がわからないというのも、嘘らしいですよ。南方熊楠によれば、幽霊も引力の法則に従うらしい。布団に横になっているとき、自分の体と平行の姿勢であらわれる幽霊は幻覚で、ちゃんと重力の方向に立っている幽霊は本物だそうです。熊楠ってのは、変なこと考える人ですね」

それはそうかもしれないが、そもそも何で南方熊楠がそんなこと言ってたことを知ってるんだ。

フランスにあり、廃墟同然となっていた中世の古城。この城に魅せられた不動産会社の社長がこれを日本に移築するという一大プロジェクトを敢行、千葉県に移築・復元され、テーマパークとして復活したのがこの物語の舞台、シメール城。

しかし、フランスから持ってきたのは城だけではなかった。この城の主である中世の騎士、稲妻卿ことエドガー・ランペールの亡霊も一緒についてきて、社長に乗り移り、要求するは自分以外誰も入れない状況の塔内で背中から剣で貫かれて死んだ自分の死の真相。

ちょっと待て引くな。

この作者の実力は間違いなく高いと思うのですよ。真っ向勝負的な作品を書けば絶対ウケると思います。でもそれをやらないでこういう訳わからないものを書く。自分の中でのハードルも高くて、真っ向勝負ものだと自分の中で納得いかないのかなあ。

この作品も、こんな状況だから出動した石動戯作も「探偵」ではなく「魔術師」として推理しなければならないって事になってるし。というかシリーズ重ねるごとにどんどんこの人がダメになっていってるような気がする……。本作に至っては○○すら十分にやっていないし。

謎解きというよりは、750年間城から出たこと無かった稲妻卿、現代の日本でご活躍の巻、という感覚で読んだ方が良いのかも。何故か日本語が普通に話せてしまったりと、物語に都合が良いようにリアリティがぶち壊された世界ですが、きっちりやるべきところはやってます。だからこれだけの実力があるんだから普通の作品書いて下さい。

ただ、ちょっと具体的には分からないのですが、今までの作品に比べて若干パワー不足かな、という印象。オチもこの人らしくひねってあるけれど、その割に印象に残らないと感じました。☆2に近い3で。

関連本→
石持浅海『月の扉』;↑では触れなかったが、突然現れる一般人の「いい人」っぷりが光る作品でもある。それの最たるものの一つだと思う。
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by fyama_tani | 2007-03-23 21:20 | 本:国内ミステリ

北村薫『六の宮の姫君』

No.72
創元推理文庫:1992
☆☆☆
「それ以外に書きようがあるんですか」
 先生は口髭を撫でつつ、にんまりと一座を見回した。
「毎年、鋏と糊が多いようだな」

さしずめ今ならCtrl+C, Vで数十ページは軽く書くみたいな。コピペ上等な立場ですが、その大もとってどこから来ているのか気になるところです。

このシリーズは「日常の謎」と言われていて、別に派手な事件とか起こらなくてもミステリとして成立しますよー的なことを世間一般に知らしめたということになっているのですが、その4作目のこれはかなり異色です。

ちなみに、このタイトルは芥川龍之介の短編から採られているとの事。そういうことが分からない自分の浅学さに暗澹とする思いですな。で、内容はこの『六の宮の姫君』の作品が書かれた経緯を掘り下げていく、というもの。この作品に関する謎めいた言葉が冒頭に出てきますが、まあそれだけ。

近いジャンルに歴史ミステリというものがあって、これも基本は歴史上の謎(有名どころだとチンギス・ハーン=源義経説を題材にした『成生思汗の謎』とか)が主題となり、過去の文献とかを調べることで明らかにしていくという構成が取られますが、普通は例に挙げたような「一般的に知られた謎」か、「~~理由で不思議でしょ? ホラ調べないと駄目じゃん」みたいな問題提起がされるのが普通でしょう。しかし、本作にはそういうものも無いと言って良いくらいにあっさりしている。

結局のところ、近世文学論の一つと割り切って読んでしまうのが良いのかもしれません。最初は当然作者の芥川が中心なのですが、中盤以降菊池寛に関する議論が増えてくるのもポイント。この人と直木三十五は名前は有名でも何書いたの? 的な位置づけのような気がするので、その片方に深く触れられるのは良いかも。知識の無い人でもがんばれば分かる(のだと思う。私はちゃんと理解しきれてませんが)レベルで書かれているので、近世文学の導入に良いテキストかも。

そして本編とはあまり関係ありませんが、この描写に唖然となった。以下、主人公がバイト先の出版社で文壇の大御所に会った時の会話。

「君なんかはどう、菊池(寛)さんのものは?」
「はい、文学全集で読んだことがあります。短編にいいものが多いので驚かされました。もっと評価されてしかるべき作家だと思います」
(中略)
「『真珠夫人』は読みました」
 天城さん(注:主人公のバイト先の編集者)が、微笑んでいった。
「今時、千人に聞いても読んでないわよ。あなたって面白い子ね」
(中略)
「いや、僕(注:大御所)は読んでるぞ。この子も読んでる。ほら見なさい。三人集まると、二人は読んでるんだ」
「それは先生、通りませんよ」
 田崎先生は委細かまわず、
「どうだったね」
テレビの原作にぴったりの本だと思いました。波瀾万丈ドラマが流行っていますけれど、新しく作らなくても『真珠夫人』をやればいい筈です。貴族の衣装なんかをきっちり作って、いい台本でやれば絶対に面白いでしょう。でも、続けてもっと読もうとは、どうも思えませんでした」


はいこれ10年後現実になったね。東海テレビお得意の昼ドラドロドロシリーズを代表するものとして。というか、あのドラマの企画立てた人絶対これ読んでるね。それくらい異常な符合だと感じました。

関連本→
高田崇史『QED 百人一首の呪』:これも結末に出てくる謎の解明が凄くて、論文にでもした方が良いんじゃ? と感じさせる。
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by fyama_tani | 2007-03-19 22:57 | 本:国内ミステリ

桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』

No.71
角川書店:2006
☆☆☆☆
「美しい人は、都会に向いている、と、そんな気がね。つまり変わっている生きものは。頭がよすぎるのも、悪すぎるのも。慧眼がありすぎるものも、愚かすぎるものも。性質が異質で共同体には向かない生まれのものは、ぜんぶ、ぜんぶ、都会にまぎれてしまえばいい、と思っていてね。ははは」

なるほどー。私が片田舎のそれまた片田舎から、片田舎の県庁所在地に早い段階で出て、今は日本の首都に住んでいるのはこういう理由が背景にあるのかもしれません。頭悪いし。で、次は世界の中心? それは流石に無いか。やる気無いから。

著者はもともとライトノベルを書いていた人です。最近だと森絵都がこれだと思うのですが、「最初は児童向け作品を書いていて、一般向けにシフトして一気に活躍の場を広げる女性作家」に連なる新たな人だと思います。乙一あたりが出てきた時にはこれからはこの男性版がはやると思ったのですが、どうもそうはならなそう、というか執筆ペースが遅かったり(乙一)、ターゲットを後ろ向きに絞ってしまったり(西尾維新)で微妙な感じがします。

閑話休題。

基本は連作短編集です。旭川の街を舞台に、私生児として生まれ、その美貌も相まって町でちょっとした有名人になっている少女川村七竈を中心に、話ごとに語り手が微妙に変わって進行するロンドの形が取られています。

帯にもあるように、カテゴリ分けするなら恋愛小説が妥当なのかもしれませんが、トリッキーな書き方がされていたり(二話で取られている二重叙述が最たるものか。ちょっと乙一っぽい)、七竈は鉄オタで自宅には模型の広大な線路が敷かれているという設定だったりと、どことなくズレた雰囲気。その微妙な脱力感が良いです。

舞城王太郎の『世界は密室で出来ている』を読んだ時に、現代において片田舎の学生をメインにした話をやるなら若干破綻したくらいの世界設定が必要不可欠だなと強く思ったのですが、本書を読んでますますその思いを強くしました。主人公の造形だけでなく、後半にかけて「登場人物が増えてくるのにどんどん世界が狭くなってくる」という趣向においても(詳細はネタバレになるが)それが鮮明に示されています。そういえば昔、「ちびまる子ちゃん」の長沢くんの中学時代を描いたという凄まじくニッチな作品(ちゃんとさくらももこが書いてる)を読んだことがあるのですが、後者はそれの終盤に通じるものがあるかも。

とにかく、この一年くらいでもっと有名になって良い人だと思いました。かなりオススメの部類です。

関連本→
舞城王太郎『世界は密室で出来ている』:両作品を合わせて読むことを強くお勧めします。
宮部みゆき『心とろかすような』:同じ○○○の描写でも作品世界に合わせてかなり違うのだなあと。どっちも綺麗にはまっていると思います。
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by fyama_tani | 2007-03-18 22:25 | 本:その他

折原一『倒錯のロンド』

No.70
講談社文庫:1989
☆☆☆☆
 冗談じゃないよ。原稿が間に合わなかったら、それこそ、死んでも死にきれない!

精魂込めたものだとしたら、分からんでも無いのかなあ。そこまで真剣に物事に携わったことが無い自分ですが。

『倒錯の死角』に続く「倒錯」シリーズその2。といっても前作との関連は舞台が同じ東十条というだけで、何の関連も無いので前作を読む必要は全く無し。都内でも東十条なんてかなりマイナーの部類ですよねぇ。位置関係とか、近くに住んだことがある(含む自分)人じゃないと良く分からないんじゃないでしょうか。どうでも良いが。

本作も叙述です。小説家を目指し新人賞への応募作書きに意欲を示す男の手記を軸に、盗作疑惑が絡んだサスペンス、といったところでしょうか。そこに何重にも仕組まれたからくりが隠されているという凝った構成。三部構成の第三部冒頭には作者からの挑発的な文章が差し挟まれている真っ向勝負系の謎解き小説です。

私はその部分まででこの手の作品に良くあるaからくりの一つには気づきましたが、それが何のために仕組まれてるのかその必然性が分からなく、更なる真相を知って、ああなるほどと。かなり複雑で全貌を理解するためにはもう一度軽く読み直すくらいの手間が必要ですが、無駄無く収まっていると思います。良品でしょうね。あと、この手の話で良くあるのがどんでん返し後、作品の終わりまでが惰性っぽくなってしまう(それ以前が十分衝撃的だったら許せるとは思いますが)という点ですが、本作は最後の最後までやってくれます。こういうところも好印象。

でも、この本が書かれた経緯(ネタバレになるので詳細は書かない)に当てはめると、ここまで悪ノリが過ぎるのはマイナス要素なのかなあと。叙述トリックの形を取った悪ふざけ、パロディっぽい雰囲気も感じ取れます。でも初読みの時にはそんなこと微塵も感じさせないところがこの作品の凄いところなのかも。

関連本→
バリンジャー『歯と爪』:これも叙述有名作。シンプルでありながら破壊力が凄まじい。
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by fyama_tani | 2007-03-11 23:10 | 本:国内ミステリ

2007年1-2月位に読んだ本

とりあえずもう訳が分からなくなってきたので箇条書きで。ちなみに小説のみ。最近若干新書づいてきている(今更)。

冲方丁『マルドゥック・ヴェロシティ』
No.63
角川文庫:2006
☆☆☆☆+

全3巻。前作『マルドゥック・スクランブル』よりちょっと前のお話。『~スクランブル』が文句無しの傑作で、こんなものが2度(しかも連作でだ)も書けないということで、正直過剰な期待は寄せていなかったのですが、前作ほどでは無いにしてもこれも凄いぜ。若干ラノベ色、というかイロモノ色が強くなっているか?

推奨される読み順は刊行順に『~スクランブル』→『~ヴェロシティ』なんだろうけれど、はじめての人だったら逆でも良いかもです。どういう順番で読むかによっても印象が(特にある人物の)変わるんじゃないでしょうかねえ。

折原一『倒錯の死角―201号室の女』
No.64
創元推理文庫:1988
☆☆☆

トリック小説の典型的な例ですねー。結末のあの展開は、純粋なミステリというよりホラー的なアプローチが感じられます。アル中病棟から出てきたばかりという設定の大沢の作中における挙動は明らかにおかしいのですが、結末に至って本当におかしいのは誰かと問いたくなります。

北村薫『街の灯』
No.65
文春文庫:2003
☆☆☆

氏の代表作「円紫さんと私」シリーズをそのまま昭和初期に持ってきたような感じの短編集。主人公のおかかえ運転手役として物語の重要な要素を占めるベッキーさんは、どことなく宮部みゆき『初ものがたり』に出てくる稲荷寿司屋の親父に通ずるものを感じさせます。一応シリーズ物としての構想があるらしいので、現時点では『初ものがたり』の二の舞(一作で途切れた)にならない事を祈るのみ。

天藤真『大誘拐』
No.66
創元推理文庫:1978
☆☆☆☆☆

大富豪の老婆と老婆を誘拐した犯人たちとの関わりの物語。
参りました。完璧な構成だと思います。歴史的な名作とされるのは当然だと思うし、これは残していくべき作品だと思います。

船越百恵『放課後ローズ―警視庁第七捜査資料課』
No.67
カッパ・ノベルス:2007
☆☆

メフィスト賞の後追いみたいな賞を獲ってる人の3作目。何故か追っかけて読んでます。デビュー作の感じから、シリーズ物になるのかなあと思いきやノンシリーズで3作目。でも芸風が広いというよりはセールス的に滑ったから別な設定で書かざるを得ないみたいなそんな雰囲気を感じます。流石に飽きてきました。地の文の書き込みがうるさいのかな。

舞城王太郎『暗闇の中で子供-The Childish Darkness』
No.68
講談社ノベルス:2001
☆☆☆

デビュー作『煙か土か食い物』の主人公・四郎の兄、三郎が主人公。前作ではただの駄目人間っぽい書かれ方の三郎でしたが、本作では実は凄いんじゃね? 的な活躍をしています。全然良い方向には生かせていない感じが駄目さを感じさせますが。
前作がアッパー系ならこれはダウナー系、って感じで、前作以上に人を選ぶと思います。改行無しでこの長さは正直キツイ。あと内容も脈絡ないし。この路線で突っ走るだけじゃマズイだろ、という間隔で書かれたのが『世界は密室で出来ている』だと考えています。最初の楓のエピソードが受け入れられない人はやめた方が良いかも。あと、個人的にはこの作品「超アンチミステリ」だと思うのですが、アンチミステリ自体良く分かっていないのでどうでも良いです。

アガサ・クリスティー『オリエント急行の殺人』
No.69
クリスティー文庫:1934
☆☆☆☆

超有名作を読んでいないということを晒すシリーズ。しかも、「オチを知らずに読めることが最高難度の作品」とされていることを最近知った。ドラマとかリライトされたものとか触れる機会が普通は沢山あるからなあ。で、そのどれにも触れていないあたり自分の好奇心の低さに愕然とするのですが、じゃあ読むかと。でびっくりしました。本当。でも、このネタは確かになるべく早く読んだ方が良いとは思うけれど、ミステリとしていっちばん最初に読むべき作品では無いだろうね。って書くとネタバレ?
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by fyama_tani | 2007-03-07 21:20 | 本:国内ミステリ