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石田衣良『池袋ウエストゲートパーク』

No.84
文春文庫:1998
☆☆☆☆☆
やつは生まれてからなにかを地面に落としたことがないといった。地面に着くまえにみんな拾えるじゃないかと。

物理的にありえるのかそんなこと。とはいえ、キャラクターの特徴をこれだけの文章で見事に描出してるね。

同名のドラマありましたよね? アレは今となっては伝説的というか、その場の視聴率だけが人気の全てではないということを示した作品という位置づけのはず。当時は宮藤官九郎? 誰それ、って感じでしたし、もちろん原作だって「あーこれ小説が原作なんだー」という程度の人がほとんどでしたでしょう。それをとりまとめたのは凄い。放映中は毎回打ち切りを上司にちらつかせられて、プロデューサーは始末書書きまくっていたらしいが。

キャストも今となってはありえないような面子。脚本も1回目から凄かった。当然自分も宮藤官九郎なんて知らなかったのだが、あれは衝撃でした。

でも何でその後見なかったのだろう……。ドラマにおける最大の損失のような。

で、小説の方の話。石田衣良は今や人気作家で、先にも述べたように、デビュー作がドラマ原作として使われていたのは知っていたけれど、いまいち手が出せなかったんですよー。そしてついに読んでみた。

やっぱりもっと早く読んでおくべきでした。

これは個人的な意見だが、本作の舞台となる池袋は、東京の中でも外からの位置づけと中からの位置づけにもっともギャップがある場所のような気がする。要するに新宿とか渋谷辺りと比べて、外からは同列に見られて中からは一格下に見られてるみたいな。そんな微妙な場所が持つ性質を巧く組み上げてる。

そして、これが画期的だと思うのだが、主人公は池袋(しかも西一番街)の果物屋が実家で、プーと絵に描いたようなヤンキーで、出会う事件もそれに見合うようなものなのだが、解決に当たり今で言うアキバ系な人たちを上手く使っている(後半二編に顕著)。これが本作に奥行きをもたせているのは確実。その後秋葉原に関する本を出したのを見たときには、「何だ流行りに乗って適当に書き散らしてるのかこの人」とか思ったが、すいませんでしたデビュー作からその方向性はあったのですね。

そういった、いわゆる素材の選び方も一級品だし、どこから物語の輪郭を描いていくかというのがほぼ完璧に近い構成。ラスト一行まで気を抜いていないし、最後の短編ではきっちり全体をまとめるオチまで付けている。これでデビュー作は凄すぎる。

どうも短編ごとに、それに関わった登場人物が以降の短編で協力者として現れて――的な趣向が取られているらしく、この先まだまだ魅力的なキャラが出てきそうな予感ですね。思い立つと続きを読みたいシリーズ物はあらかた読んでしまった(もしくは未発刊)ところで、これは見事なタイミング。

関連本→
金城一城『GO』:こっちはミステリ色は無いけどね。やはり話の運び方が超一級。映像化されて、これの主人公杉原と、『池袋~』でのカラーギャング団のボス(キング)を同じ窪塚洋介が演じている。両方読むと、なるほどな、と思うはず。
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by fyama_tani | 2007-05-21 22:19 | 本:国内ミステリ

佐々木丸美『崖の館』

No.83
創元推理文庫:1977
☆☆☆
「しかたがないわ、封建、天皇、あらゆる信義忠誠の教育の中で育ったのだからそれが真なりとして生きて当然だと思うわ。私たちが自由と奔放、個人尊重の思想の中で育ちこれが真なりと盲信しているように。どちらが良いか幸せかは計ってはいけないと思うの。その人がその時代を真剣に生きて信頼に値するのであればそれが至上の幸福なのだから。明治が悪くて昭和が良いとは断言できないし古いものが悪くて新しいものが良いとは決まっていないのだから。もし歴史が反対に流れていたら私たちはやっぱり同じように考えると思う。私たちが今明治を生きて昭和の人の考え方を見つめるとしたらきっと時代のギャップはどうしようもないと言うでしょうね」

親戚同士でこんな会話しますか普通。テーマ自体は普遍だけど。最近読んだ文章で、いかにも現代の若者の問題点を描写した内容かのように引用して、「実はこれは30年前に書かれた文章です」とする構成があったけれど、それは巧いと思った。全然関係ないね。

デビューして20作弱の作品を書き、そのまま筆を折ってしまったという人らしい。そして、自作の重版や復刊を頑なに拒否していたのだとか。数年前に亡くなられたらしく、その後復刊(結果的に全作品になるそうな)されるというのは何たる皮肉。

北海道の僻地に洋館を建てて一人暮らす資産家のおばのところに、長期休暇ごとに集まるいとこたち、その中で不気味な出来事が起き、犯人はそのメンバーの中にいるとしか考えられない。洋館は豪雪によって孤立し、更に電話線は切られ……、と見事な「お館さま」ミステリ。

登場人物たちは一様に饒舌で、様々な薀蓄を披露する。語り手で高校生という設定の涼子がやけに幼く感じるところや、館の主人であるおばが厳しすぎるんじゃねーか、というのは時代か。

で、個人的には読んでいる最中、既視感を感じたり、「ああ、当然あるべき○○とか○○とかの情報が意図的にかわされてる(ように感じた)から、これを伏線としたどんでん返しがラストにあるな」とか考えていたのですが、これまた割とありがちなラストで終わった、という印象。

まあ無理も無いんですよね。ちょっと調べてみたら、本作が出たのが1977年、一方、新本格の始まりとされる『十角館の殺人』が1987年と、なんとこれより10年先のこと。さらに遡っても『占星術殺人事件』が出たのが1981年なので、明らかにそれらの流れに先んじているわけです。そういう文脈を知った上で読むとまた違うかも。少し調べた感じでは、カルト的な人気があって、復刊運動もかなり熱心に行われたらしい。

そして、その後凝った作品がいろいろ出てきて、それらを読んだ上でこれを読むと、地味に感じてしまうのが正直なところ。密室トリックも、謎の導出は良いけれど解決がかなり物理的に問題があるものですし……。10年早く世に出てしまい、また復刊されるのもあと10年早ければ……といった作品でしょうか。

関連本→
森博嗣『笑わない数学者』:ここで出てくる「オリオン像の消失の謎」と、本作におけるラストピース「絵の消失の謎」は同じ文脈で語られるべきでは? と思った。やっぱ10年早く復刊されていれば衝撃が全然違ったな(この作品の初版は1996年)。
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by fyama_tani | 2007-05-20 22:54 | 本:国内ミステリ

北村薫『朝霧』

No.82
創元推理文庫:1998
☆☆☆☆
「いやだなあ、僕は。――いいかい、君、好きになるなら、一流の人物を好きになりなさい。――それから、これは、いかにも爺さんらしい台詞かもしれんが、本当にいいものはね、やはり太陽の方を向いているんだと思うよ」

本物は圧倒的。どうやっても出てくるものだと思う。大多数はそうでは無いから、出方を考えないといけないけれど。

シリーズ第五作目。ここで途切れているのかな? そうであることが非常に勿体無いと強く感じる作品集です。

メインキャラに落語家がいることから、これまでも様々な落語との絡みが出てきていたのですが、本作における本編との有機的な絡みは特に見事。というか改めて思ったけれど落語って奥深いですねー。『風呂敷』(「山眠る」より)は脱出不可能な密室からいかに出るかを扱ったものだと取れるし、『天狗裁き』(「走り来るもの」より)なんてまんまメタフィクションですよね。落語を借りて、近年のミステリを総括している、そんな感じがします。そこに縦横無尽に張り巡らされた伏線、その伏線そのものを扱ったのが最後の「朝霧」。『淀五郎』におけるある台詞の必要性をめぐる議論は、そのまま小説に対する作者の美意識が出ているようです。

シリーズ横断的な伏線や暗合が出てくることや、「朝霧」中の暗号を最終的に解くのは円紫師匠ではなく「わたし」自身である点、そこにラストのあの一文、と来れば、シリーズとして佳境に来ていることが非常に感じられます。でもこの先が出ていない。これは非常に惜しい!

関連本→
若竹七海『ぼくのミステリな日常』:伏線に次ぐ伏線といえばやっぱりこれ。この無駄の無さも凄いっすね。
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by fyama_tani | 2007-05-20 22:30 | 本:国内ミステリ

乾くるみ『Jの神話』

No.81
講談社文庫:1998
☆☆
 ――調査を依頼したいのだが。……《黒猫》に。

こんな現実離れした調査依頼あるかよ。

先日、同じ作者の『イニシエーション・ラブ』を読んで、ちょっとメフィスト賞受賞者としてのこの人の側面が気になり、で受賞作を読んでみた次第。

つうか何これ。というのが最後まで読んだ感想。一部に絶賛する向きもあるらしいが、俺は引いた。

まあ、何というか、地雷踏む覚悟が出来てる人は読んでみても良いかもね。何てネタバレを回避せずに書くことが難しいんだ。メフィスト賞らしい、と言えば物凄くそうらしいのだが、一方で第4回メフィスト賞受賞作、ということが最大のトリックとなっていると思う。

物語としては、女探偵「黒猫」の存在意義が非常に疑問かな。無くても話全然成立するんじゃね? と思う。というか調査といっても勘に頼るの一点張りで、ご都合主義もここまで来るとなぁ……。あのラストから察するに続編を意識しているわけでは無かろうに、その割には思わせぶりで投げっぱなしの描写多いし。

発生に関する部分はよく勉強しましたー感が漂っている。専門外の人が扱うことにおける限界かな。モチーフだけ抜き取ると、自分の中でかなり別格扱い的なあの作品やあの作品やらとかぶるのだけど、それをつなぎ合わせるとどうしてこんなしょーもない話になってしまうのだろう……。

関連本→
サラ・ウォーターズ『荊の城』:若干ネタバレだが、要はコレでしょ? これも凄い唐突な展開だったけれど、本作ほどの無茶苦茶さは無かったな……。
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by fyama_tani | 2007-05-13 21:10 | 本:国内ミステリ

折原一『倒錯の帰結』

No.80
講談社文庫:2000
☆☆☆
「あれって、わたし好みで、とってもよかったわ。でも、その後がまるでだめ。叙述トリックっていうの? 最初の頃はよかったけど、手を変え品を変え、もううんざり。飽き飽きしたわ」

自分全否定ですか。

『倒錯の死角』『倒錯のロンド』に続く3部作のラスト。構成がかなり独特。登場人物に若干の共通点はあるものの、基本的に独立した中編「首吊り島」「監禁者」があり、本の頭から読むと「首吊り島」、後ろから読むと「監禁者」となる製本業者泣かせの構成。更に、両者にとってラスト部分になる、すなわち本書の真ん中部分は「倒錯の帰結」として袋とじになっており、これを読むと今まで独立していた両編がつながるという仕掛け。

一般向けなのは「首吊り島」かなあ。孤島に行ってそこの名家で起きた連続殺人事件を解決するというどんな横溝ですかみたいなお話。「監禁者」は前二作と同じ東十条(このチョイスも凄いマニアック……)のアパートが舞台。より折原チックなのはこちら。自虐ネタ大量。そしてこっちの密室トリックは氏ならでは、という感じがする。一応、どちらから読んでもOKとなっているが、「首吊り島」で「?」と思う部分が「監禁者」で解明するくだりがあるので、素直に「首吊り島」→「監禁者」と読むのが吉。こう両編読んで見返しても、逆に読むことのメリットってあまり思いつかないなぁ……。

そして最後の解決編、袋とじ「倒錯の帰結」、これどうなのか……? 完全に一般読者を置いてきぼりにしているような気がする。少なくとも私はイマイチその趣旨というか凄さがつかめませんでした。一番最後のセクションのアレは完全にボーナストラックだと思いますが、まずその意味が分からない人は理解できないと思う。でそこから更に人を選ぶと。「首吊り島」→「監禁者」→「倒錯の帰結」とどんどん読み手がふるい落とされていくのが目に浮かぶようです……。

関連本→
麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』:本作も主人公が徹底的にひどい目に遭うが、この作品の主人公が遭う目も相当ひどい。訳分からなさも共通してるかも。
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by fyama_tani | 2007-05-13 20:54 | 本:国内ミステリ

竹本健治『将棋殺人事件』

No.79
創元推理文庫:1981
☆☆☆
「たどり来て、未だ山麓……か」

ここまで絶望的に輪郭がつかめない作品も珍しい。

『囲碁殺人事件』に続く、ゲーム3部作その2。前作で囲碁の天才として登場した牧場智久少年は将棋の腕もかなりのものだった、ということで今回のテーマは将棋。

といっても将棋が主題かどうかは極めて怪しいところです。むしろ物語の中心にあるのは都市伝説。それをそっくりなぞったかのような状況が大地震の起きた中部地方で発見され、その謎の解明に動き出す――、という流れです。

噂の変容を追っていくプロセスはかなり精密。でも、だから何なの? という思いが常につきまといます。そしてそこに平行して詰将棋雑誌に投稿された作品にかかった盗作疑惑が絡んでくるのです。

それらが徐々に解決に(たとえそれが間違ったものだとしても)向かっていくのが普通の話、でも本作はそういった一般的な進行を拒否します。ところどころに暗合は認められるものの、謎は何も解決することなく終盤まで進行し、それが異様な雰囲気を与えます。

これだけの大風呂敷に対して、解決編がちょっとあっさり過ぎるのが難点? 五里霧中の展開の割にはあっさりしたラストだなあと。「実は大したことじゃないんだよ」という事が言いたかったのかも。

関連本→
荻原浩『噂』:都市伝説を扱ったものとしてはかなりメジャー? まあ読みやすいし。
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by fyama_tani | 2007-05-13 20:25 | 本:国内ミステリ

観光客の目で宇都宮を視る(070407-070408)

自称栃木出身なのに宇都宮のことを何も知らないので、観光してきてみた。一般的に外の人が思う、ベタな宇都宮のイメージに基づいて。

この記事は全文へのインデックスです。この記事は全文へのインデックスです。2007年GW終わり(5/6)位まで上の方に表示されます。写真の比率を上げることが課題。

・1日目1(4/7)

・1日目2(4/7)

・1日目3(4/7)

・2日目1(4/8)

・2日目2(4/8)
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by fyama_tani | 2007-05-07 00:01 | 雑記

関西付近を微妙に彷徨う(070324-070331)

静岡とか大阪とか和歌山とか橋とか三重とか。脈絡はあんまり無い。

この記事は全文へのインデックスです。2007年GW終わり(5/6)位まで上の方に表示されます。この長さは何とかならないのか。

・1日目(3/24)

・2-4日目(3/25-27)

・5日目(3/28)

・6日目1(3/29)

・6日目2(3/29)

・6日目3(3/29)

・7日目(3/30)

・8日目(3/31)
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by fyama_tani | 2007-05-07 00:00 | 雑記