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2007年年末に読んだ本

2007年ラストスパート。といっても2冊だけど。

宮部みゆき『東京下町殺人暮色』
No.115
光文社文庫:1990
☆☆☆

宮部みゆきの割と初期の作品。いまさら補完。登場人物に親子がいて、その父親が警察官、という設定はありがちだけど、父子両方同じくらいに重きを置いて名前で書き分けるというのは中々珍しい。

それ以外にも、お手伝いさんのおばあちゃんがいるような「一般家庭でそんな贅沢な。非現実的な」な設定や、犯人の動機とかにこの人らしさが全開です。近年の重厚なものが手を出しづらいという人は本書とか『長い長い殺人』あたりを読むと良いと思う。

連城三紀彦『人間動物園』
No.116
双葉文庫:2002
☆☆☆

この人は技巧派として知られていて、トリックの凄さでは群を抜いているというのだが、それだけマニア受けなものなので、中々本屋で手に入らない、という印象。比較的最近のこれですらあんまり見かけない。

有名代議士の孫が誘拐された、という通報から動き出す、いわゆるありがちな誘拐小説的構成ながら、最後で軽々と裏切ってくれるあたりさすが。誘拐を改めて定義しなおしたその構成は巧いです。

ただ、中盤ちょっとだれるかな。登場人物同士の疑心暗鬼っぷりがちょっと画一的というか、盛り上がりに欠けるような気がした。
# by fyama_tani | 2008-01-13 17:06 | 本:国内ミステリ

2007年11-12月位に読んだ本

明らかに気力が落ちてきている。本を読むペースもまた然り。珍しいことに未だ飽きているわけではないのだが……。

京極夏彦『文庫版 百器徒然袋 風』
No.110
講談社文庫:2004
☆☆☆

榎木津ものですね。榎木津が出てくればなんでもアリみたいな感じになっているような。『姑獲鳥の夏』の頃の榎木津がちょっと懐かしいかも。

語り手が混乱する様子を伝えるために地の文までわざと分かりにくくしたりするなど、自在に扱っているなー、という印象。でも登場人物がみんな語り手さんの名字は言えて名前だけ間違えるというのは悪ノリしすぎじゃないかと。

乾くるみ『リピート』
No.111
文春文庫:2004
☆☆☆

「時間を遡ってもう一度人生をやり直した人たち」の間でのクローズド・サークル。特殊とはいえSFでは割と知られた設定をミステリ的な趣向で書いてみました的な。

この人の妄想が過ぎた日記のような文体は多分素なんでしょうねえ。『イニシエーション・ラブ』ではそれが良い方向に働いていたと思うけれど、本作においてはちょっと不自然、かも。純粋な思考実験として楽しめる完成度はあると思うが、これが水を差してしまっている気がしました。

道尾秀介『背の眼』
No.112
幻冬舎文庫:2005
☆☆☆

近年かなり注目されている書き手さんのデビュー作。作家と霊現象の専門家が主人公とか、オカルト的な現象が事件の中核にあるとか、地の文に登場人物の独白突っ込みが混じるとか、どんな京極夏彦ですか。

話の進め方とかは巧い気がしたので、この手の系統以外でもう1作読んでみたいと思った。

日本推理作家協会編『不思議の足跡』
No.113
カッパ・ノベルス(光文社):2007
☆☆☆

短編のアンソロジーもの。非現実的な登場人物がいたり、非現実的な設定があったりするもの中心。

伊坂幸太郎ってかなり本格系にも造詣が深いんですか、と思ったのは『吹雪に死神』。神が探偵役というのが無理なく生かされ、かつ伏線回収も見事な畠中恵『八百万』、「しゃばけ」シリーズに手を出してみようか……。松尾由美という人は知らなかったのですが、『ロボットと俳句の問題』では事件の解決に非現実的な能力/現象を使うことにおける一つの完成系が提示されていますね(同列に宮部みゆき『鳩笛草』)。惜しむらくは連作短編のラストだけ読んでしまったという点。アンソロジーものの弊害ですね。

石田衣良『反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパークV』
No.114
文春文庫:2005
☆☆☆

とうとう文庫化の最新版まで追いついた。このシリーズが今年1番の収穫。

でもさすがにちょっと苦しくなってきている感があるかなぁ……。「スカウトマンズ・ブルース」はその続きがちなパターンを逆手にとって敢えてベタに書いた、という印象も受けるけれど。

表題作「反自殺クラブ」は唯一Gボーイズがまったく出てこないからか、逆に不思議な印象を受けた。ここにこれから更に飛躍するための鍵があるのかもしれない。
# by fyama_tani | 2007-12-29 22:44 | 本:国内ミステリ

東野圭吾『容疑者Xの献身』

No. 109
文藝春秋:2005
☆☆☆☆
「ははあ、そうですか。先生のお作りになる問題なら難しそうだ」
「どうしてですか」石神は刑事の顔を見据えて訊いた。
「いや、ただ何となくそんな気がしたんです」
「難しくはありません。ただ、思い込みによる盲点をついているだけです」
「盲点、ですか」
「たとえば幾何の問題に見せかけて、じつは関数の問題であるとか」

それは難易度高めだと思うぞ。昔自分は明らかな幾何の問題を関数として解いたり、その逆をやったりはしていたけれど。だから嫌われるのか。

このミス1位かつ直木賞受賞作。最近ではドラマ化された『探偵ガリレオ』に続く作品としても有名ですね。警視庁の刑事草薙と大学助教授湯川のコンビものです。

前二作『探偵ガリレオ』『予知夢』は湯川が物理学の専門家であるという設定に立脚し、物理トリックに主眼をおいたものが中心でしたが、初の長編となる本作は大分毛色が異なっております。まず物理トリックとかさして関係ない。

多分これは私が他の書評を読んでいないだけだと思うのですが、これあからさまな倒叙ものですね。読者視点から見ると、探偵と対決しているのが犯罪を犯した張本人(靖子)ではなくそれの隠蔽工作をした石神であるという点がひねりかかってますが。

まあそうなると、何で湯川シリーズでこれを? という疑問もわいてくるわけですが。今回湯川は石神という特異なキャラクターを無理なく際立たせるためだけに駆り出されたのかなあと、そんな気もします。

国内においてはあまり数が多くない倒叙ものの傑作として、これは長い間読まれていくのではないでしょうかねえ。1回限りの大技が効いたラストは(ミステリとして)圧巻。このハウダニット系な驚きだけでも十分な傑作たりえたと思います。

ただそこで話を閉じずに、ホワイダニット系に話を落としたのはおそらくガチのミステリを嫌う直木賞対策なんじゃないかと邪推してみたり。出版元が文藝春秋というあたりもお膳立ては揃って東野さん直木賞受賞おめでとうございます的な雰囲気がしますし(実際そうなったわけだが)。

関連本→
東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』:このあたりの作品を読むと、トリックメーカーとしての才も相当なものなんじゃないか、と思います。
# by fyama_tani | 2007-12-02 21:57 | 本:国内ミステリ

炭化カルシウムと炭化アルミニウム

最近、何かの資料で「炭化アルミニウムに水を作用させるとメタンガスが発生する」という文章を見た。

高校あたりで炭化カルシウム(カルシウムカーバイド)に水を作用させるとアセチレンガスが発生する、というのは習うような気がするが、炭化アルミニウムとかこれまであまり聞かない言葉だ。

それはさておき、同じ金属の炭化物なのに金属の違いで全然違うガスが発生するのは何で?

というわけで電車の中で他の本を読みながら1分ほど考えたら自分の中で納得できる理由が見つかりました。無機化学的な考察が加えられればもっとはっきりするのかもしれないけれど、プーだからこんなもので良いや。家帰ってからもう少し調べてみたら炭化アルミニウムの組成式(予想はできたが実際どうなのかは知らんかった)はAlC3でもAl2C6でもなくAl4C3だという点(炭化カルシウムはCaC2)も自分で考えた仮説を支持するものだし。でもこれを高校生に説明しようとするとちょっと難しいかもなあ。

この知見を使って有機化学系の研究室にならどこにでも転がってる試薬で何かできないかなあと思った。どんだけやられてるか調べてみよう。調べたからといって自分でやるわけじゃないけれど。暇ないし。
# by fyama_tani | 2007-12-02 00:09 | 化学:実験その他

インデアンカレー 丸の内店@丸の内 (カレー)

No.37

公式

ぐるなび

食べログ

07/11/11 訪問

場所:JR東京駅丸の内南口から有楽町方面へ。はとバスの乗り場を越えた辺りにある商業ビル、TOKIAの地下1Fのレストラン街の一角。徒歩5~10分。

客層:1~2人。やや年齢層は高め(30~50代中心)。

店内:厨房は奥。ただしご飯の盛りとカレーかけは客の目の前で。このスペースを囲むようにカウンターが置かれる。(このランクの店にしては)なかなか品の良い内装。

予算:1000円前後。

大阪が発祥のカレーチェーン店ですね。東京はこの1店舗のみです。梅田で食べた感動が忘れられなくて来ました。

やっぱり2度食べてもからくりが全く理解できないのですが、このカレー、一口目は甘く感じるんです。でも2口目からは結構辛くなる。そして食べ終わる頃には、「結構辛いカレーだったなー」となるのです。どういうスパイスの調合をしたらこのような味になるのでしょうか? この不思議さを味わうだけでもここに来る価値があると思います。

あと、ここでは注文してから店員さんの動きを決して見逃してはいけません。カレーなので注文後に店員がやるべきことは皿にご飯を盛って、ルーをかける、ただそれだけなんですけど、それが完全な分業制になっています。そしてルーかけは(おそらく)一番偉い人がやってる。どんなに注文が入っても決して他の人にはやらせない。そのルーかけは、もはや芸術の域です。具とかはいたって普通、良もそんなに多くないので、730円という価格設定はやや強気な感がありますが、このうち200円くらいは店員の動きをみるために払っているようなものですな。

梅田の店は大阪発祥とは思えない凄い殺伐感がまた魅力的だったのですが(でもやるべきことはきちんとやっている。食べ終わった頃を見計らって無言で楊枝を出してくるその間合いの取り方は凄いと思った)、ここは若干ソフト? そして付け合せのキャベツのピクルス(カレーを頼むと自動的に付いてくる。これも独特な感じで食べてみる価値有)を、最初に出された場所から動かしていたらカレーが出てくるときに元の位置に戻された。これはやりすぎのような。

とにかく、いろんな意味で通常のカレーとはワンランク違うものを魅せてくれる店です。今度はカレースパゲッテイ(まあライスがスパゲッティに変わっただけのものなのだが)にも挑戦してみたい。
# by fyama_tani | 2007-11-11 22:55 | 都内食事