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機本伸司『神様のパズル』

No.12
ハルキ文庫:2002
☆☆
「TOEの具体的な中身について、今これ以上話せない。発表もできない。容易に想像できると思うが、社会的、政治的な問題に触れてしまう恐れがあるので、扱いが難しいのだ」

フェルマーの最終定理じゃないんだから。

「宇宙を作ることは可能か?」という命題に挑むSF、という事になっています。そこで出てくるのが16歳にして大学に飛び級入学(舞台設定は近未来の日本)した天才少女。9歳にして素粒子論(だっけ?)の新理論を発表して、それが応用された新しい加速器が建設されているのだそうな。まあそういう話ですので、作中には物理の基礎理論に関するディスカッションがそれなりの量で出てくるのですよ。

でも、何ていうか全体的に甘いんだよなぁ……。まず、舞台は大学のゼミという事で、研究室内でのディスカッションが中心になっているのですけど、登場人物が第一線で研究しているという感じがまるで無く、本物さん(瀬名秀明とか森博嗣あたりね)が書いたものに遠く及ばないという印象を受けました。こういう世界に縁の無い人だったらあまり気にすることではないのでしょうが……。

そして理論部分が薄いです。本当に可能かとかいうのはまるで無視して良いとは思うのですよ。ただ、もっと「それっぽく」ディテールを詰めてほしかった。ちゃんと語られるのは俺みたいな物理のど素人(宇宙に対する研究なんか金の無駄だと思うような人です。タルコフスキーじゃないですけれど)でも知っているレベルで、一歩踏み出すと冒頭の引用文みたいに「分かっているけれど今は言えない」とかで逃げる。その辺りは、主人公綿貫の日記という体裁もうまく利用していると言える(綿貫は物理に関して何も分かっていないという設定)のですが、だったら全体の構成をもっと不連続的に汚くすべきだった。

関連本→
京極夏彦『ルー・ガルー―忌避すべき狼』:何で天才少女というと必ずハッカーなんだろう?
M・クライトン『ロスト・ワールド』:素人にも説得力を持たせるにはこれくらいディテールの書き込みが無いと。ちなみに映画より原作はずっと重い。
by fyama_tani | 2006-05-28 22:05 | 本:その他