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宮部みゆき『心とろかすようなーマサの事件簿』

No.45
創元推理文庫:1997
☆☆☆☆+
「ははあ、まだ新しい人なんだよ」
 要するに、売れてないのである。

自虐ネタですか。

デビュー長編『パーフェクト・ブルー』に続く、家族経営の蓮見探偵事務所を舞台として、用心犬のマサの視点で描かれる作品。表題作を含めた5話から為る短編集です。

犬の一人語りって、というわけで、当然ながら最後に事件の真相を見破って解決するのは蓮見探偵事務所の面々であり、マサはサポート役、という事になります。その嗅覚を生かして、人間たちより一足早く真相に至る事はあれど、悲しいかなそれを人間たちに直接伝える術を持たないので、そんな事にはお構いなく人間たちが勝手に推理を進める形となります。

と考えるのが普通の人、という所でしょう。

しかしこの作品、『マサ、留守番する』で大きな逆手を打ってきます。冒頭で蓮見探偵事務所の面々が旅行に出かけてしまい、タイトル通り、マサ一匹が留守番として蓮見家に取り残されてしまうのです。そんな状況下、話は成立するのか? という壮大な実験精神に支えられた作品。

詳しくは実際に読んでもらうとして、結論だけ言うと、ちゃんと(人間の世界における)事件の解決が為されるし、ちゃんとそこにマサも有機的に関わっているという、一種の離れ業がここでは為されています。この短編は本当に凄い。

他の短編も、最近よく聞くようになった言葉を先駆的に取り入れて、物語の中心に据えた(正しい使い方、というわけでは無いですが)ものや、氏にしては極めて珍しい楽屋オチの作品など、連作でありながらバラエティー豊かで、かつ実験精神にあふれる粒ぞろいの短編集となっています。『長い長い殺人』に並ぶ、宮部作品、隠れた名作の一つと言えるでしょうか。

関連本→
モーリス・ルブラン『八点鐘』:1作1作事にガラリと雰囲気が変わるという意味ではこれも。紹介作には無い、全短編を束ねる仕掛けも読み所では。
by fyama_tani | 2006-10-15 17:05 | 本:国内ミステリ