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天藤真『遠きに目ありて』

No.46
創元推理文庫:1981
☆☆☆☆
「場所はいま教えたよ」
「あのへんのスラム街、一ぺんや二へん聞いたってわかるもんか。……あ、そうだ」

舞台は成城署管内。なのにスラム街とは……。時代でしょうかね。

成城署の捜査主任真名部警部のところに来る数々の難事件。当然彼らもプロですから、地道な捜査の末に真相へと近づいていくわけですが、警部がひょんなことから知り合った脳性マヒで体の自由がほとんど利かない岩井信一少年は警部の話を聞くだけで、車椅子に乗ったまま……。という連作短編集。

いわゆるサヴァン症候群の一つと捉えることは可能ですし、安楽椅子探偵ものの典型と言える作品です。ただし岩井少年は車椅子から離れられない生活を送っているとはいえ、純粋な安楽椅子探偵というわけではなく、後半の作品では外に出て、実際に捜査の一端を手伝う、なんてシーンもでてきます。

すなわち、もちろん謎解きが主体の作品ではあるのですが、真名部警部の視点を通して、障害者の社会への適応と、それに関しての健常者への問題提起が横糸に走っている、という見方をするのが妥当でしょう。岩井少年の場合、社会を見るきっかけになったのがたまたま刑事事件だった、というだけと言えるかもしれません。

謎解きの面から見ると、証言に非常に重きを置いた作品集であると言えます。いずれにおいても、証言の内容を良く吟味することがキーになっていて、その極限が『多すぎる証人』の8人連続の証言を並べたシーンではないでしょうか。ひとつ、岩井少年になったつもりでこのシーンは良く読み、ここから何が言えるか考えてみる、というのが正しい読み方なのかも。

関連本→
東野圭吾『探偵ガリレオ』:難事件を抱えた刑事が畑違いの人間に持ち込み、その人間が警察内で徐々に認められていく、という共通点多し。
by fyama_tani | 2006-10-19 22:28 | 本:国内ミステリ