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戸川昌子『大いなる幻影』/佐賀潜『華やかな死体』
No.48
講談社文庫:1962 ☆☆☆☆☆ 「奇蹟でございますよ。教祖様が手を触れただけで、あなた、焼けたバイオリンがもと通りに生れ変わったのですわ、それもそれだけではないんですよ。もっと驚くべきことには矢田部寿和さんの、どんな医者でもなおせなかった指が動き出したんですよ。ああ教祖様の偉大な力。」 ガチガチの胡散臭さ。 僕にはお伽話のミステリーは書けない。あくまで現実を直視し、現代のゆがんだ断層をとらえ、僕なりの批判をしたのが、この小説である。 「事実は小説より奇なり」を地でいこうか。 第8回江戸川乱歩賞受賞作(2作受賞)。こんな感じで、全集の形で文庫で2作まとめて読むことができます。 この回は候補作も凄い豪華で、もっとも激戦だったと未だに語り継がれる回。偶然ですが鮎川哲也賞も第8回が最激戦と言われてますね。 ただ、激戦というのはあくまで候補作の出来が拮抗していた結果でしかなく、それがイコール「受賞作が凄い」とはならないと思うのです。まあ普通に考えれば落選作も日本を代表する作品となっているわけで(天藤真『陽気な容疑者たち』、中井英夫(塔晶夫)『虚無への供物』)、凄くないわけが無いと思うのですが、読んでみないことには。 で読む。 まず、『大いなる幻影』。冒頭にバラバラないくつかのエピソードが提示されますが、基本的な舞台となるのは女子専用のアパート。ここに長年暮らす老女たちに一つ一つ焦点を当てる構成が取られています。どの登場人物も一癖ある、という感じで、どことなく暗い雰囲気で物語が進行します。 中盤以降、新興宗教「三霊教」が関わってくる辺りから、物語はどんどん混迷の度を深めていきます。そして、道路拡張に伴うアパート全体が移動される工事開始とともに、ついに謎の真相があきらかに! と思ったら、そう来るかみたいな仕掛けが。最近の作品と比較しても古さは感じないし、むしろ先取り? みたいな感じです。これは凄い。なんかこれ以上はネタバレにつながるから上手く説明できないが、一度読んでみた方が良いかも。そして一度読んだらもう一度序盤を読み直してみて。大胆な仕込みにびっくりです。 関連本→ 桐野夏生『OUT』:こちらも女性たちの群像劇。暗いトーンながらリーダビリティは高い。 続いて『華やかな死体』。『大いなる幻影』がこちらの作者の言葉である「お伽話のミステリー」ならば、こちらはリアルもリアル、検事を主人公に据え、殺人事件の発生から容疑者の特定、逮捕、起訴に至るまでの証拠固め、起訴、裁判での相手弁護士との法廷戦と、「ノンフィクション?」みたいな作りになっていて、非常に対照的。 基本的に容疑者には言い逃れができないような証拠があって、でもそれをどのように弁護士が「無罪」となる戦略を練るか? という点は、不可能であると主張する犯人に対して可能であることを証明する、一般的なミステリとは逆の形態であると言え、それはそれで興味深いです。 惜しい点は、検事側からの視点に終始してしまったせいで、弁護士の巧妙な戦略に関する説明がおろそかになっている感があったこと。結局どういう意図だったのか、そしてそれが判決にどのように効いたのかがイマイチ見えなかったのが歯がゆいです。あと、これは実際やったら「問題作」認定で世に出ることは無かったと思うのですが、ラストは分からない、という結論の方が良かったんじゃないかなあ。少なくとも、主人公の城戸検事の中では完全に解決していると思うので。 関連本→ 野沢尚『破線のマリス』:時を経て、「主人公にとって事件が解決してさえいればOK」なこんな作品が、「問題作」とは言われながらも乱歩賞を受賞することになりました。これを読んだ後に『華やかな死体』を読めば、言いたかったことが何となく分かるかも。 2作ともそうそう読めるレベルではない、極めて高水準な作品だと思います。それが1冊にまとまっているとは実にお得。個人的には、『大いなる幻影』の方が好き。
by fyama_tani
| 2006-10-29 20:09
| 本:国内ミステリ
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![]() 小説の紹介とか化学に関する事とかを織り交ぜながら適当に。
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