東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』
No.56
講談社文庫:1992 ☆☆☆☆+ 由梨江が呟きながら、窓の外を見た。「ある閉ざされた雪の山荘で……か」 フィクション、と開き直ってしまえばどんな設定も許される。 タイトルそのまんま、閉ざされた雪の山荘が舞台です。といっても、それは登場人物の中だけのルール。演劇のオーディションに合格した7名の男女が主宰者によって集められた山荘で、「外への交通手段も連絡手段も吹雪によって絶たれた」連続殺人事件というテーマで舞台稽古を行うというややこしい設定なのです。だから、実際には外は晴れわたっているし、電話も通じる。でも外部と連絡を取った時点でオーディションの合格取り消しというペナルティがあると。 もちろん殺人も起きて、被害者役は他の人の前から姿を消すという形になっており、後には死因や発見状況について書かれた紙が置かれるとか徹底しています。 というか徹底しすぎじゃない? という流れから、現実に殺人事件が起きているのでは無いか、と思わせる状況証拠が出てきて、混乱するも決定的な理由が見当たらず、オーディション取り消しを恐れて外部にも連絡が取れないという見事な精神的クローズドサークル。 これだけなら、いわゆる関係者一同が集められて、何故かその場が俗世間から隔離されて、待ってましたとばかりに殺人事件が起きるみたいな古典的ミステリのパロディ、という事である程度読み慣れた人向けって感じですが、最後の最後でこれは凄いぞ。 ……でもこれとほぼ同じトリック読んだことあるんですよね自分。もともとミステリが中心でない場でキャリアを積んで、一般向けの作品を書き始めた途端一気に注目されるようになった新鋭のある短編。今思うと、本作を意識していたのかなぁ……。そんなわけで驚き半減でした、残念。 他にどんでん返しというよりは演出効果として使ったある長編とかも知っていたりして凹むと。なるべく予備知識無しでこれは読んだ方が良い。そういう意味では初心者向け。的が絞りにくいなぁ……。まあ、過度に薀蓄に走ったりはしていないし、文章も読みやすいと思うのでミステリをさして知らない人でも読みやすいと思います。で、他の作品を読んでなければ読んで無いほどインパクトは大きいと思う。
by fyama_tani
| 2006-12-03 22:46
| 本:国内ミステリ
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小説の紹介とか化学に関する事とかを織り交ぜながら適当に。
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