人気ブログランキング | 話題のタグを見る

深水黎一郎『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』

No.76
講談社ノベルス:2007
☆☆
「そういう意味では、超能力の本当の敵は懐疑論者ではなく、超能力者を騙るイカサマ師たちであると言うことができるでしょう」

この一文、「超能力」を「メタミステリ」に変えても通用するかもな。

久々にメフィスト賞ものでも読むか、と。『冷たい校舎の時は止まる』以来ですかね。

内容は、なんというかアレです。作家である主人公のもとに届いた一通の手紙、そこには「『読者』を犯人とするトリックを思いついた」という内容が書かれていたと。

ところで、この設定を聞いて「おおこれは面白そうだあ」と感じる人ってどれくらいいるのでしょうか? 大方の人にとっては「ハァ?」で終わると思います。で、そこで読むのをやめればそれは非常に賢明な判断でしょう。

メフィスト賞という存在には賛否両論があるとは思うのですが、基本的には「新しいスタイルを世に問える作品」を出すことで現在の地位を築いてきたんじゃないかな、と考えています。自分自身は清涼院流水や西尾維新辺りを評価していませんが、この点に関しては異論が無いです。

で翻ってこれはどうか、というと、何も問えていない。この作品自体メフィスト賞の過去作品の焼き直しのような印象を受けたし、超能力に関する記述とかを読むに知識はある人だと思うのですが、だから何なの? という感じ。「読者が犯人」ということの重大性が理解できない人間(基本的に頭がおかしい)にとってこれを読み続けるのは厳しい内容でしょうね。そしてその肝心のトリックも無茶苦茶というか、これOKにしたら何でもありじゃん、と。もちろんそこに何らかの作品的な必然性があれば問題ないと考えますが、ページ数を明記して伏線の回収を行った(実作でこれをやるのは自分の文章力の無さを強調しているだけで格好良いやりかたとは思えない……)割には、だから何なのみたいな。もう限界が近づいてきてるのかなメフィスト賞……。

そしてこのタイトル。えっと、どういう意味なんですか。皮肉とかではなくて素で分からないんですけど。ネットで少し調べても良く分からず……。

関連本→
芦辺拓『グラン・ギニョール城』:この本のあとがきで氏が述べている「メタミステリにおける限界」というのはまんまこの作品のためにあると思う。
by fyama_tani | 2007-04-21 21:48 | 本:国内ミステリ