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乾くるみ『イニシエーション・ラブ』

No.78
文春文庫:2004
☆☆☆☆+
 東京で暮らすようになって、まず最初に感じたのが、水道水の不味さだった。カルキ臭がとにかく強いのだ。

残念ながら私は全くそれを感じなかった。他の地域の生水も同様。何か、東南アジアの生水とか飲んでも大丈夫なんじゃないかと思う。

Side-A・Side-Bの二部構成。Side-Aは合コンの代打として出席した大学生の鈴木君が成岡さんと出会い、愛を深めていくところまで。Side-Bは就職して東京配属が決まり、遠距離恋愛となった鈴木君と成岡さんの関係が微妙になっていき、別れるまでが描かれる、と。

これぞ二部構成にふさわしい作品ですね。

おそらく、大多数の人がSide-B、ラスト二行目でかなり混乱するのではないかと思います。そこから、作者が仕掛けた多数の罠を自分で解明していくところが本作の本当の始まり、と言えます。

まあ、ぶっちゃけ言えばパターンとしては新しいものではないと思います。大して読んでない俺でも同様の作品に思い当たったし、昔「こんな趣向のものがあったら面白いんじゃね?」と自分で思ったアイデアをもっとシンプルにやった(最初それが念頭にあり、その方向で解釈しようとして詰まった)だけだった、という辺りからも、トリック自体は「コレはオンリーワンだ!」というものでは無いと思う。

ただ、この作品は、普通この手の作品に良くある、「読者を最後まで引き付けておくための謎や事件の提出(誘拐事件だったり悪徳商法団体の壊滅を狙ったり)」が全く無いという点においてかなり異質なものになっています。だから最後の2行を読むまでは、これはミステリでもなんでもなく、ただ男女の付いた離れたを描いただけの作品(かなり指摘されているが、それだけでは大した作品ではない)としか読者は考えない。これ、凄い賭けだと思います。しかも最後の最後で明かしてぶん投げるということは、気づいてくれなかったら作者としてフォローする手段が無いわけですし。そのために「最後の一行」では無くて「最後から二行目」にキーが提出されるのではないかという指摘をその後読みましたがこれは目から鱗。

文庫版ならば、解説で詳細なネタばらしがされているので、かなりこれで読みやすくなっていると思います。解説最後に書かれている、ある趣向に隠された意味の説明は本当全く気づかなかった。

今なら文庫化されてその辺の本屋で簡単に手に入ると思われるので、まだの人は読んでみるが吉。そして途中で「つまらん」と思っても絶対最後まで読んでみましょう。間違いなくびっくりするから。

関連本→
歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』:これも先に「補遺」を絶対読んじゃだめー。共通点も多いです。というかこっちがあまり間を置かず先に出ていたのは紹介作にとってかなり不幸だったかな。
冲方丁『マルドゥック・スクランブル』/『マルドゥック・ヴェロシティ』:どこまで意図されたものかは不明だけど、この2作もある読み方をすることである登場人物に対する印象がガラリと変わる。
by fyama_tani | 2007-04-29 23:26 | 本:国内ミステリ