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2008年3月くらいに読んだ本

本読むペースが落ちている時ってバイオリズム的に躁か鬱かというと後者なんだろうね。多分。良く分からないけど。

桜庭一樹『赤×ピンク』
No.126
角川文庫:2003
☆☆☆

祝直木賞。ということでもともとラノベで刊行されてた作品が一般文庫で出たから読みましょう、という流れ(店頭で見るまでこんな作品があること自体知らなかったのですが <無知)。

現代の東京を舞台にしつつ多分に非現実的な雰囲気なんだけど、よくラノベで通ったな、という印象。この人の好きな三部構成ものだけど、ピークが最初の章「”まゆ十四歳”の死体」で来ちゃってる(何故このタイトルなのかというのが明らかになる部分)のが微妙かも。最後に盛り上がりはあるけど、「○○かよっ!」みたいな。

この人の作品は必ず一つは「巧いな」と思わせる文章があるのが良い。本作なら、舞台の廃校の場所を説明する際の、「その道は説明しづらく、一度行っても、二度目のとき迷ってしまうほどわかりにくい。」この一文だけで現実と非現実の区分けを完璧に説明しきってるものなあ。

奥田英朗『イン・ザ・プール』
No.127
文春文庫:2002
☆☆☆

このシリーズの第二作『空中ブランコ』が直木賞獲ってますね。シリーズ最初の連作短編集。風変わりな精神科医、伊良部のもとに来る風変わりな患者たちの顛末を描いたものです。

常識はずれな行動を取り、患者の訴えを解決しようとしているのかしていないのか良く分からない、なのに何故か解決してしまう、という流れは、京極夏彦の多々良センセイシリーズを思わせますね。こちらが精神科医と一見まともそうな職業であるのに対し、多々良先生の方は妖怪研究家と訳分からなかったり(要はプー)、スケールの大きさという点から俺は多々良先生の方が読み物として面白いと感じたかな。

患者に影響されてなのか、伊良部が短編ごとにいろいろなことに手を出しているのですが、そのいずれも別な患者のときに出てこないのがちょっともったいないというか。ひきずって最後の頃にはいろんなことに手を出しまくって訳わかんなくなる、という構成の方が面白い気がする。書く方は大変だろうけどね。

法月綸太郎『頼子のために』
No.128
講談社文庫:1989
☆☆☆

この人の『生首に聞いてみろ』での論理の流れが個人的に好みだったので、この人の転換点とされるこの作品を読んでみた。まず、「娘を殺された。警察は当てにならない。だから自分で調べて犯人を見つけた。復讐する。計画は成功した。自分は自殺する」という内容の一人称手記から入り、その手記をなぞるかのように起きた事件に対して手記を元に主人公が再調査する、という初期新本格にありがちな展開がなされます(この作品がその「初期新本格」ですけど)。

この形式をとる以上、「世間一般では終わったとされる事件を何故事件とは関係ない第三者が再調査する必要があるのか?」という問題から逃げられないと思うのですが、本作はその辺りの処理が巧いです。マスコミ対策、ねぇ……。

オチが割と想定の範囲内だったのと、そこに至るまでの流れも型通りな感があったのがもったいないかな。犯人との対峙における処理も疑問が残った(というか自分があんまり好きなパターンじゃない)。

中町信『空白の殺意』
No.129
創元推理文庫:1980, 2006
☆☆☆☆+

復刊三部作のラスト。まあ作品同士に関連性はないけど。この作品は、高校野球出場で一躍県下に名をとどろかされた新設校の教師が変死体で発見されるところから始まります。その捜査過程で、その高校が甲子園に行くためにある工作をしたのではないか、という疑惑が出てきて、更には次の甲子園に出場することが決まっている(別な)高校に対しても疑惑がかかったりと典型的な「登場人物全てが疑わしい」パターン。その過程でどんどん人死にが出ます。ちょっとやり過ぎの感もあるけど……。

高校野球って結構特殊な世界かな、という思いが昔からあって、これを題材にした作品とか面白そうだよなあと思いつつちゃんと扱ったものを読んだことなかったのですが、これはそういう意味でストライク。高校野球を題材にしながら出てくる登場人物のほとんど大人たちで、実際の選手は出てこない(置いてきぼりにされてる)あたりもこの世界の怖さをうまく演出してるのかなあ、と。

でラストはお決まりの叙述なのですが、「模倣~」「天啓~」に比べるとちょっとトーンダウンというか、型通りかなあと。でもヒネリはあって、こういう感じで着地すれば、読む前と後でジャンルが変わったように感じさせられるのかあ、と変に関心してみたり。
by fyama_tani | 2008-03-30 21:28 | 本:国内ミステリ