2006年 08月 27日 ( 1 )

多島斗志之『二島縁起』

No.37
創元推理文庫:1995
☆☆☆
「……なあ、きみ」
「はい」
「おれもきみの私生活については詮索しないから、キミも俺の腹を解剖しようなんて思わないでほしいんだがな」

「何か出てくるのが怖い」からではなくて、「何も出てこないのが怖い」というのが正解かも。

多島斗志之復刊その2。前回『不思議島』と同じ瀬戸内の島が舞台ですが、両者に関連は全くありません。今回の主人公は海上タクシー船長の寺田。作中の描写を見る限り、「タクシー」とはいっても30人ぐらい乗れる船みたいで、同業者にはもっと大きな船を持っている人もいるみたいなので、軽いチャーター船のようなものなのかもしれません。そんな諸島地域特有の職業が物語の中心に据えられています。

……で、この話、単純に○○とカテゴライズしてしまうのは惜しい、というか難しい作品です。冒頭の不可解な依頼の件とか二島間の確執に起因すると思われる不審死、というところだけ取るとミステリなのですが、寺田が自分の船を操って妨害船を振り切るシーンは海上を舞台にしたアクションものとして十分成立しうるボリュームをもっているし、二島間の確執もつきつめていくと「アウラ衆」という謎のキーワードに至り、歴史ミステリの感がただよってきます。そしてラストシーンにおいて、実は人間ドラマではないかと思わされる。それら全てが違和感なく混じり合っています。それだけでも十分凄い。

惜しむらくはあまりにいろんな要素がほぼ均等に混じり合っている結果、非常に人に勧めづらい作品になってしまった、ということでしょうか。本格ミステリ、アクション、歴史の謎、人間ドラマ、このいづれかに興味がある人なら誰でも、って気はするんですけれど、それぞれの分野でもっと先に勧めるべきものはあるだろーみたいな。あと『不思議島』の時のように周辺地図を載せてもらいたかった。様々な島を行き交うシーンが頻繁に出てくるのですが、文章だけではちょっと理解しづらかったので<駄目

関連本→
森博嗣『冷たい密室と博士たち』:本作とかこれあたりは、「この人犯人じゃつまらんよなー」って必死に否定要素探しながら読んでました。ミスディレクションが光る。
島田荘司『異邦の騎士』:特にコレ、ってのは無いんだけど、読後感は最高に良かった。
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by fyama_tani | 2006-08-27 22:38 | 本:国内ミステリ