2006年 09月 20日 ( 1 )

近藤史恵『ガーデン』

No.41
創元推理文庫:1996
☆☆☆
「じゃあ、貴方の役割はなんなんですか」
「わからないよ。たぶん、次の被害者かなんかじゃないのか」

日常からは脱却できても役割からは脱却できない。

序盤だけを読むと、失踪した火夜と呼ばれる女性を探すために、探偵の今泉が捜査を開始し、そのうち殺人事件に巻き込まれるという、王道を行く臭いがします。しかしそれは中盤以降、読んでいるこちらが心配になってしまうようなペースで崩れていくことになります。

読者の認識を疑う、という点のみを取れば、似たような作品はいくらでもあります。そういう作品の多くは、登場人物の「名前」がキーワードになっているような気がするのですが、本作は火夜を始めとする変わった名前の登場人物が複数出てきながら、主題は名前に無いような気がします。多分、ここで重要になってくるのは「役割」。作品全体を通して、当事者間での役割と作品世界全体における役割の二層性が漂う作りになっています。

この事と、「名探偵」今泉の最初の事件であるということは偶然では無いでしょう。今泉を「探偵」という役割を与えられた人というキャラ付けにすることで、最初の事件を鮮やかに描ききった気がします。

小説という形態の大きなアドバンテージであることを生かし、一部の事項は敢えて丸投げになっている感があります(顔の表情など、映像情報があれば一瞬で分かることを敢えて省略してしまうことで、解釈は読者にゆだねられる)。かなり実験的色が強い、という印象。

関連本→
殊能将之『美濃牛』:同じく、名探偵最初の事件を扱った佳品。
あと強い相似形を示す作品を一つ知っているが、お互いにとって大ネタバレになるので、ここには書けない。
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by fyama_tani | 2006-09-20 22:38 | 本:国内ミステリ