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No.60
講談社文庫:1981 ☆☆☆ 「(前略)この歌が語っているのは当時誰も気づかなかった一つの殺人事件です」 スケールの大きさに遠い目をするしかない。 自分の中で、「興味はあるけれど何から手をつけて良いか分からない」作家の典型が連城三紀彦だったのですが、先日アンソロジー中の短編一作を読んで「これは凄い」と思って早速買ってみた、という感じです。 終戦直後のある殺人事件が冒頭で描かれ、中途半端な形で終わる。そこから時代は流れ、ひょんなことからその事件の被害者であった元軍人であり、優秀なピアニストでもあった男の半生をモデルに小説を書く着想を得た作家が主人公の話になります。 だからといって、いわゆる大技系にありがちのトリックを期待するとそれは肩透かしを食らうわけで。もっとベタな形での「驚き」を期待していましたが、そういうものとはちょっと違いますかね。この時代背景をこういう形で扱ってしまうとは……。評論では良く出てくるテーマですが、実作に取り込んでしまえというアプローチは稀なのかも。 後半に出てくる楽譜の暗号も読ませどころのひとつなのかもしれませんが、自分の頭が悪いのか、イマイチ「真相」までの流れを悪くしているような気がしました。 関連本→ 谺健二『未明の悪夢』:日本人なら誰もが知るアノ事件をこう扱ってしまうのか、と。比較的最近だけに、若干不謹慎と取れなくもないですが。 ▲
by fyama_tani
| 2006-12-29 08:22
| 本:国内ミステリ
No.59
文春文庫:1998 ☆☆☆☆☆ 「私まで一緒にするな」ライムが指摘した。「私だけは騙されなかった」 どのように見破ったかは気になるところ。というかもの凄い自信。 元ニューヨーク市警科学捜査部長で、科学捜査のエキスパートだったが今は捜査中の事故によって四肢麻痺となり、寝たきりの生活を送るリンカーン・ライムが主人公のシリーズ第2作。1作目『ボーン・コレクター』は映画化もされているのでご存じの方もいるかもしれません。 四肢麻痺という特殊な状況ですが、そうなった原因があくまで「捜査中の不慮の事故」であって、特定の人物に復讐されたとかそういう形になっていないのがミソでしょうか。無理矢理な宿敵の設定みたいなのはあまり好きになれないタチですので。 さて、シリーズものの2作目は地道にクオリティを維持させるか、キャラクターメインに走るかの分岐点となる、重要なところであると考えられます。個人的には前者であって欲しいですが、作者としてはネタ切れの恐怖にさいなまれるパターンでしょう。 本作はややヒロイン役のサックスが何でもできる感に描写(射撃もカーテクニックも一流で、全作からライムに仕込まれた現場鑑識の腕も高い)されているフシこそありますが、総じて犯人を追いつめるところのプロセスは高め。更に話の進め方も、ライムはじめ捜査陣は殺し屋「コフィン・ダンサー」の正体が分からずあの手この手を尽くすパートがあるのは当然として、平行してターゲット(ライム達が護るべき)を狙う殺し屋の視点からも語られるという倒叙的趣向もあり、更にその殺し屋は早くに自分を追う敵の名前が「リンカーン(・ライム)」であるとは分かるもののその正体は分からず不安にさいなまれるという、実はどっちも相手の手の内が分かっていないトリッキーな状況が見て取れます。 これだけでも十分凄いが、更に終盤に航空機を用いたアクションシーン(類似のモチーフは過去作品にたくさんあるパターンだが)あり、その上もの凄い仕掛けが何重にも張り巡らされていて……。あらゆる要素が数段パワーアップしてますねこれは。 やや専門的な視点から見ると、やっぱGC-MSって良いんですかねえと。GCだけでも欲しいと仕事柄思うのです。ただ、GCだけならそんなに大きくはないが、MSがつながっているとなると、イオン化はおそらくEIで、出たフラグメントパターンをデータベースと照合して同定という形を取っていると思う。で、検出系は時代設定を考えるに磁場偏向型だろう。それが普通に部屋にあって、更に他の分析機器もあるってのはどんだけでかいんだライムのプライベート研究室(というよりライムの家)。スペース考えるなら四重極型だけど、HRMS取れないしね。本文中に分子式を決定していると思われる描写があるから、おそらく無い。 関連本→ 松岡圭祐『千里眼』:こっちは心理学を用いた犯行の追求プロセスが圧巻。更にアクションシーンも充実、どんでん返しもありとエンターテイメントど真ん中、って感じですか。 ▲
by fyama_tani
| 2006-12-23 23:38
| 本:海外ミステリ
No.58
創元推理文庫:1980 ☆☆☆ 智久の天才性は、現在のところ、ことに囲碁を介して大きく開花していた。囲碁の天才少年現わると、マスコミに大きく取りあげられたのは最近のことである。 いくら少年時代にIQが高くても、何らかの形でクローズアップされなければ埋もれる。そうして消えてしまった人は少なくないはず。 IQ208の天才少年牧場智久、その姉典子、典子が助手を務める大脳生理学者の須堂信一郎が、対局中に殺された「碁の鬼」槇野猛章九段の謎を解明する、という極めてオーソドックスなタイプのお話。 ただ、メインの謎のディテールを高めるよりも、囲碁論を語ることにのめり込んでしまったような、という印象を受けました。一応、須堂は全くの囲碁の初心者という設定で、そのレクチャーという形で基本ルールは出てくるのですが、あっという間に専門用語の嵐になって訳分からなく、みたいな。珍瓏の意味が未だに理解できん。というかこれから先も理解できないでしょう。 第一、私囲碁とか将棋のルール知らないんですよー。将棋とか、駒の動かし方から複雑で覚えられそうに無いし、毎回自分の番に来たら次の手を考えないといけないとか、考えるの苦手な自分には絶対無理ってやつですか。 そういう点が理解できる人ならば、結構キレの良い佳品と映るのかな? 関連本→ 高田崇史『QED 百人一首の呪』:これぞ完璧な「ミステリとしての事件置いてきぼり」。百人一首に関する優れた論文、という域になっています。 ▲
by fyama_tani
| 2006-12-12 22:44
| 本:国内ミステリ
No.57
光文社文庫:2002 ☆☆☆☆+ アンソロジーですよ。シリーズになっていて、他に瀬名秀明と宮部みゆきが同様のものを編んでいます。 それでこれはミステリ編。各短編、主眼に置かれている謎を「誰が?」「どうやって?」「何故?」「何が(起きている)?」にざっくり分類して並べられています。編者いわく、「本格ミステリー入門編」的なアンソロジーにしたのだそうな。つまり俺のような人間向けというわけですな。以下は収録作について簡単に。 エラリー・クイーン『暗黒の館の冒険』 え、微妙? というのが正直な所。最後の部分で仕掛けがありますが、そんなに伏線がしっかりしているわけでも無いし……。犯人の絞り込みの際に、一つ抜けている前提があるなぁと思って、そこを突いた結末なのか、と思いきや完全にスルーされてましたね。 山田風太郎『黄色い下宿人』 これ凄いです。ホームズのパスティーシュもの。だからワトスン博士の視点で物語が進み、当然主人公はシャーロック・ホームズ。しかし結末に至って……。最後の1ページは噛みしめるように読んで下さい。立ち読みでいける長さなので絶対読むべき。 ロナルド・A・ノックス『密室の行者』 「このトリックはあまりに有名」だそうです。確かに国内の某有名作品で、この短編のメイントリックと同じようなものが捨てトリックとして使われていて、「随分な大技を捨てちゃうんだなあ」と思ったものですが、こういう「原典」があったのですね。事件背景が若干分かりづらく感じたのが惜しい。 ジョン・ディクスン・カー『妖魔の森の家』 真っ向勝負の不可能犯罪ものですが、ホラー色もかなり強くある。ミステリとホラーが混在して扱われるのも仕方ないのかな、と再確認させてくれる短編。二重構造の大技が短編とは思えない贅沢さ。 エドワード・D・ホック『長方形の部屋』 ごめんなさいこのアンソロジー中、この人だけ知りませんでした。短編の名手らしいですね。個人的にはもっと短くてもこの作品全然成立するんじゃ、と思いました。最後の一文の冴えが凄い。 法月綸太郎『カニバリズム小論』 これも意外な動機に支えられた一作。確かにそれは凄いと思うのだが……。最後は蛇足なんじゃないかと思った。東野圭吾の『放課後』のラストを読んだ時と同じような座りの悪さを感じる。 泡坂妻夫『病人に刃物』 不可能状況での犯罪もの。トリックが一読「そんなことはありえんだろう」みたいなものですが、納得させられてしまうような周到な伏線が仕掛けられています。これぞ名人芸、ってやつですか。 連城三紀彦『過去からの声』 まさしく「何が起こっていたか?」的な短編。終盤にもの凄い逆転があります。収録作中ベストワンを挙げるなら『黄色い下宿人』かこれでしょうね。連城作品は昔から読まなければと思っていて、でも何から手を付けて良いかいまいち良く分からなくて未読だったのですが、これは読むしか無いと思いました。 鮎川哲也『達也が笑う』 真っ向勝負の犯人当て。解決編に入る前に考えてみた方が良い、という事で、珍しく考えてみました自分。その結果犯人と、その近辺のいくつかの伏線は見抜けたのですが……(超有名作者の中でも一二を争う問題作のメイントリックと、その手のトリックと同じ仕込み方でできるネタの複合)。単なる犯人当てでは終わらない、作者のサービス精神にあふれた一作。本編に入る前の、この作品が書かれた経緯が述べられているところも見逃さないように。 ▲
by fyama_tani
| 2006-12-09 21:59
| 本:国内ミステリ
No.56
講談社文庫:1992 ☆☆☆☆+ 由梨江が呟きながら、窓の外を見た。「ある閉ざされた雪の山荘で……か」 フィクション、と開き直ってしまえばどんな設定も許される。 タイトルそのまんま、閉ざされた雪の山荘が舞台です。といっても、それは登場人物の中だけのルール。演劇のオーディションに合格した7名の男女が主宰者によって集められた山荘で、「外への交通手段も連絡手段も吹雪によって絶たれた」連続殺人事件というテーマで舞台稽古を行うというややこしい設定なのです。だから、実際には外は晴れわたっているし、電話も通じる。でも外部と連絡を取った時点でオーディションの合格取り消しというペナルティがあると。 もちろん殺人も起きて、被害者役は他の人の前から姿を消すという形になっており、後には死因や発見状況について書かれた紙が置かれるとか徹底しています。 というか徹底しすぎじゃない? という流れから、現実に殺人事件が起きているのでは無いか、と思わせる状況証拠が出てきて、混乱するも決定的な理由が見当たらず、オーディション取り消しを恐れて外部にも連絡が取れないという見事な精神的クローズドサークル。 これだけなら、いわゆる関係者一同が集められて、何故かその場が俗世間から隔離されて、待ってましたとばかりに殺人事件が起きるみたいな古典的ミステリのパロディ、という事である程度読み慣れた人向けって感じですが、最後の最後でこれは凄いぞ。 ……でもこれとほぼ同じトリック読んだことあるんですよね自分。もともとミステリが中心でない場でキャリアを積んで、一般向けの作品を書き始めた途端一気に注目されるようになった新鋭のある短編。今思うと、本作を意識していたのかなぁ……。そんなわけで驚き半減でした、残念。 他にどんでん返しというよりは演出効果として使ったある長編とかも知っていたりして凹むと。なるべく予備知識無しでこれは読んだ方が良い。そういう意味では初心者向け。的が絞りにくいなぁ……。まあ、過度に薀蓄に走ったりはしていないし、文章も読みやすいと思うのでミステリをさして知らない人でも読みやすいと思います。で、他の作品を読んでなければ読んで無いほどインパクトは大きいと思う。 ▲
by fyama_tani
| 2006-12-03 22:46
| 本:国内ミステリ
No.55
新潮文庫:2001 ☆☆☆ 「悪魔の噂をすれば、悪魔が現れるんじゃないですか?」 噂通りの内容の悪魔が現れる事を意味しているのだろうか、それとも内容に関係の無い悪魔が現れる事を意味しているのだろうか? 「衝撃のラスト一行に瞠目!」とか帯に書かれると買っちゃうんですよね。馬鹿だから。そして途中でだれても「きっと最後まで読めば面白くなるはずだから最後まで読もう」と思ってくれる。出版社からすれば非常に扱いやすい客だ。 新作の香水のキャンペーンのために、担当の広告代理店が取った戦略は、ライバル社の製品から遠ざけ、目的の香水を買いたくなるような噂を故意に作り出し、顧客として想定している渋谷の女子高生の間に流す事だった。 その噂の中の一つに「最近女子高生を襲い、命を奪った上に足首を切って持っていく殺人鬼が現れるが、その香水をつけていると襲われない」という「口裂け女かよ」みたいなものがあったが、それが現実のものとなってしまってさあ大変、という切り口で。 読んでいる間ずっと気になっていたのでその後ちょっと調べたのですが、この作家の文章って物凄く宮部みゆきと似ていませんか。というか本人がかなり意識しているに違いない。キャラ設定もそうですし、地の文での突っ込みが物凄くそれっぽい。 まだ2作しか読んでませんが、最近(『理由』以降位?)の宮部みゆきの重厚長大型の現代ミステリには苦手意識がある人には綺麗にはまったのかもしれない。時期も似ているし。俺は似すぎている事にどうにも違和感がぬぐいきれなかった。 それと捜査陣が頭悪すぎです。今時これはどうかなあと。○○○○ンを麻薬と同列に扱うのはおかしいと思うのだが……。知らなければ作者自身に罪は無いと思います。ただ、チェックの途中で変えるべきだよね。警察が混同するのはおかしいし、他のものに変えても完全に成立するので。 さて、注目の「最後の一行」ですが。 うんちょっと唐突過ぎね? と思いました。その前で一旦終わる話の流れの方に比べると全然普通だしね。これが全体の事件に関わってくれば中々凄かったと思いますが、そういうものでも無いし……。必然性の部分から議論する必要がありそうです。あと、本当に「最後の一行」なので伏線の回収も無いので、ある程度ポイントを押さえた読み方が要求されているかなと。 関連本→ 宮部みゆき『魔術はささやく』:広告に噂を使ったという点が凄いと言われているけれど、だったらもっと昔に出ているこっちの広告ギミックの方が凄くないですか。物語としての精度も段違いだと思います。 麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』:最後では無いけれど、終盤も終盤の一行のみで完全に物語を語りつくしていると思う。やっぱり伏線の回収は無いけれど、言われているほど分かりづらい作品ではないと思います。 ▲
by fyama_tani
| 2006-12-03 17:54
| 本:国内ミステリ
行ったことが無いと気になる。ただし国内限定で。
この記事は全文へのインデックスです。2006年11月中は最上部に表示されます多分。大分疲れが見えてきました。 ・1日目(11/3、門司港レトロから博多ラーメンまで) ・2日目(11/4、朝と夜の博多の街、鮮魚市場、吉野ヶ里遺跡) ・2日目(11/5、太宰府天満宮、九州国立博物館) ▲
by fyama_tani
| 2006-12-01 00:01
| 雑記
そのまま。徒歩で山手線一周するという、極めて頭の悪い試み。
この記事は全文へのインデックスです。2006年11月の適当な時まで最上部に表示されます。必然性の無い文と写真の羅列。 ・1:田端(スタート)~池袋 ・2:池袋~新宿 ・3:新宿~渋谷 ・4:渋谷~大崎 ・5:大崎~東京 ・6:東京~上野 ・7:上野~西日暮里 ・8:西日暮里~田端(ゴール) ・9:補足 ▲
by fyama_tani
| 2006-12-01 00:00
| 雑記
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![]() 小説の紹介とか化学に関する事とかを織り交ぜながら適当に。
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